以前は任せて喜ばれていた仕事が、いまは負担になっている。上司は成長を期待しているのに、本人には「放っておかれている」と伝わる。社員だけでなく、上司の関心や会社の優先順位も変わるため、一度共有した理解が、そのまま通用し続けるとは限りません。
定期的な1on1の意味は、その時点のお互いの見方を確かめ、古くなった認識を更新できることにあります。違和感が小さいうちに話せれば、意欲の低下や関係の行き詰まりを放置せず、仕事の渡し方や支援の方法を見直せます。上司自身の言動が、相談しにくさを生んでいないかを知る機会にもなります。
ただし、面談を定例化するだけで、離職や士気の低下を防げるわけではありません。話した後に何も変わらなければ、かえって「伝えても無駄」という学習を生むこともあります。対話の質、日常の応答、仕事や制度の改善まで含めて考えたいところです。
この視点で読みたい日本語の本を25冊紹介します。研究者の理論・調査に基づく本、組織の事例を検討する本、実務家が対話の方法をまとめた本を、それぞれの特徴がわかるように並べています。
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定期的な1on1を、研究の言葉で捉える
「関係が壊れてから修復するより、変化に気づける接点を持ちたい」という考えは、心理的安全性、心理的契約、動機づけ、組織学習の知見とつながります。ただし、これらの研究と「1on1を一定頻度で行えば問題が防げる」という因果的な主張は分けて読む必要があります。
- 気づいていても、言えないことがある。エドモンドソンの研究は、チームで対人的なリスクを取れるという認識と、学習行動との関連を検討しています。面談の枠を作るだけでなく、「言ったら不利になる」と思わせる応答を減らす視点につながります。出典:Edmondson(1999), Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams。
- 約束の受け止め方が、同じとは限らない。心理的契約は、個人と組織との間の相互的な義務について、本人が抱く信念を扱う概念です。「いつか任せるつもり」と「任せてもらえるはずだった」の食い違いを考える手がかりになります。出典:Rousseau(1989), Psychological and Implied Contracts in Organizations。
- 意欲には、仕事をどう経験しているかが関わる。自己決定理論では、自律性・有能感・関係性などから職場の動機づけを捉えます。「もっと頑張って」と促す前に、裁量や支援、周囲との関係を確かめる読み方ができます。出典:Gagné・Deci(2005), Self-determination Theory and Work Motivation。
以下の各書籍に添えた問いや職場の例は、こうした知見を日常の対話に結び付けるための応用例です。書籍の引用文や、効果が検証された質問票ではありません。
関心に合わせて、最初の1冊を選ぶ
25冊すべてを順番に読む必要はありません。いま引っかかっている場面から1冊を選び、その背景を説明する本へ広げると読み進めやすくなります。
| 知りたいこと | 最初に読む候補 | 読むときの焦点 |
|---|---|---|
| 1on1を、進捗報告とどう分けるか | ヤフーの1on1 | 本人の経験と関心を扱う時間の作り方 |
| 小さな違和感から組織の問題に気づきたい | 組織が変わる | 上司の見方だけでは説明できない現実 |
| 不満や失敗が上がってこない | 恐れのない組織 | 発言に伴う不安と、受け止める側の行動 |
| 日によって意欲が変わる理由を知りたい | マネジャーの最も大切な仕事 | 仕事の進捗・停滞と日々の心理状態 |
| 関係が崩れかけた後の立て直しを考えたい | チームレジリエンス | 困難への対処、学習、被害の最小化 |
| 部下への接し方を自分も変えたい | なぜ人と組織は変われないのか | 変化を妨げる自分自身の前提 |
1on1を継続する目的と進め方がわかる3冊
まず、定期面談の時間に何を扱うのかを整理したい人向けです。3冊とも実務の知見を中心とするため、全社共通の正解として導入するより、自分の職場での運用を考える材料として読むと役立ちます。
1.ヤフーの1on1(増補改訂版)
著者:本間浩輔/実務・企業事例。書誌・内容紹介
ヤフーでの実践をもとに、部下の経験を振り返り、成長を支援する対話を学べる入門書です。2025年の増補改訂版では、実践方法が整理され、リモートワークなどの働き方も踏まえた内容になっています。
今回の関心では、「以前はどうだったか」だけで相手を判断せず、いま本人が何を経験し、そこから何を感じているかを確かめる読み方が合います。案件の報告で毎回終わる面談を見直したい管理職が、最初に手に取りやすい1冊です。例えば「最近、前より任され方が変わったと感じる場面はある?」という問いから、上司と本人の認識を比べられます。
2.シリコンバレー式最強の育て方
著者:世古詞一/実務・企業事例。書誌・内容紹介
上司と部下が1対1で話す場について、信頼関係を築く段階から成長を支える段階まで、話題や進め方を具体化した実践書です。「時間は確保したが、何を話してよいかわからない」という導入期の悩みに向いています。
業務の結果だけで相手の状態を把握しようとすると、職場での困り事やキャリアへの関心が見えないままになりがちです。本書を読みながら、いまの面談で扱えていない話題を探せます。私生活や感情を無理に引き出すのではなく、本人が話したい範囲を尊重し、必要な支援を選べるようにする使い方がよいでしょう。
3.HIGH OUTPUT MANAGEMENT
著者:アンドリュー・S・グローブ/実務・経営者の知見。書誌・内容紹介
インテルを率いたグローブによる、マネジャーの仕事全体を扱う本です。会議、意思決定、人材育成、評価などとともに、1対1の面談をどう進めるかも扱います。1on1を経営や日々の業務から切り離さずに考えられます。
相手の経験や仕事への習熟度が変われば、必要な説明や支援も変わります。上司にとっては「任せた」、本人にとっては「説明がない」という食い違いを、仕事の設計まで戻って見直したいときに向く本です。現場で確かめるなら、「いま一人で決められることと、判断に迷うことの境目はどこか」が具体的な入口になります。
声を出せる職場と、危機からの回復を学ぶ4冊
変化を早く知るには、困り事が言葉になる環境が欠かせません。問題が報告されない状態と、問題が起きていない状態を混同しないための本です。
4.恐れのない組織
著者:エイミー・C・エドモンドソン/研究・組織事例。書誌・内容紹介
心理的安全性の研究と組織の事例を通じて、懸念や失敗について発言できる環境を検討する本です。仲良くすることや要求水準を下げることと、率直に話せることの違いを整理できます。
「1on1では特に問題ないと言っていたのに」という場面では、質問の数より、話す側が予測している不利益に目を向けたくなります。上司が反論を急ぐ、失敗を人格の問題にする、といった反応がなかったかを見直す手がかりになります。個人面談で拾った違和感を、普段の会議や報告の受け止め方にもつなげたい人に合います。
5.チームが機能するとはどういうことか
著者:エイミー・C・エドモンドソン/研究・組織事例。書誌・内容紹介
メンバーや仕事が流動的に変わる環境で、実行しながら学ぶ「チーミング」を扱います。固定したチームの親睦だけでは捉えきれない、専門や立場を越えた協働を考える本です。
部署異動、新しい案件、他部門との連携が増えた後には、以前共有できていた用語や責任範囲が通じなくなることがあります。1on1で「本人の能力が下がった」と結論づける前に、協働する相手や前提がどう変わったかを調べる視点を得られます。新任の上司や、チーム再編後の関係づくりを考える人にも読み応えがあります。
6.心理的安全性のつくりかた
著者:石井遼介/研究知見・実践。書誌・内容紹介
心理的安全性を、日本の職場でどんな行動に結び付けるかを考えやすい本です。話しやすさ、助け合い、挑戦、新奇歓迎という切り口に加え、リーダー自身の心理的柔軟性や行動分析にも触れています。
社員に「何でも言って」と伝えた後、実際には何が起きているかを点検できます。例えば、異論が出たときだけ説明を遮っていないか、助けを求めた人に仕事が集中していないか。面談の場だけ穏やかにするのではなく、日常の反応を変えたい管理職向けです。制度を導入した後に発言が増えない理由を考える際にも使えます。
7.チームレジリエンス
著者:池田めぐみ・安斎勇樹/研究知見・実践。書誌・内容紹介
困難への対処、そこからの学習、被害の最小化を、チームの力として捉える本です。出版社提供の紹介によると、国内外の50本を超える研究論文を下敷きにしており、早期発見や困難に備える取り組みまで扱います。
今回の「一時的に壊れそうになっても、脆さが出たことに早く気づきたい」という関心に近い1冊です。個人に我慢を求める対応が続いていないか、同じ困難が繰り返されていないかを考えられます。1on1で拾った話を本人の気持ちの問題だけで終わらせず、負荷の分担やチームの対処方法へつなげたいときに向いています。
上司の聴き方・問いかけ・伝え方を変える5冊
社員の本音を増やそうとする前に、上司の関わり方を変える余地があります。助言する側が何を知っていて、何を知らないのかを問い直す本を集めました。
8.問いかける技術
著者:エドガー・H・シャイン/組織心理学・支援実践。書誌・内容紹介
組織心理学者シャインによる、相手への関心から問いかける姿勢を学ぶ本です。自分が答えを持っている前提で質問することと、相手の現実を知るために尋ねることの違いが、対話を見直す軸になります。
「なぜ、もっと早く相談しなかったの?」には、相談すべきだったという結論が含まれています。そこを「相談しようとしたとき、何が引っかかった?」と尋ね直せば、上司には見えていなかった事情を探れます。こうした応用を考えたい人や、経験を積んだ結果、つい説明や指導が先に立ってしまう上司に合う本です。
9.人を助けるとはどういうことか
著者:エドガー・H・シャイン/組織心理学・支援実践。書誌・内容紹介
支援する人と支援を受ける人の間に、どんな関係が生まれるかを考える本です。善意の助言でも、受け手に無力感や負い目を生む可能性があることを踏まえ、協力関係をどう作るかを検討します。
会社や上司の状況が変わると、以前喜ばれた支援が、干渉と受け取られることもあります。「こちらが良いと思う支援」と「本人がいま求める支援」を分けて確かめるために読みたい1冊です。1on1でも、話を整理したいのか、一緒に判断したいのか、上司に動いてほしいのかを先に確認すると、支援の食い違いを見つけやすくなります。
10.傾聴術
著者:古宮昇/カウンセリング理論・練習。書誌・内容紹介
来談者中心療法を基礎に、聴き方を練習問題から学べる本です。自分では受け止めたつもりの返答が、話し手にはどう伝わるかを考える練習ができます。組織調査の本ではなく、応答そのものを磨くための本です。
相手の話が途中なのに、励ます、原因を推測する、解決策を提案する。こうした応答を普段の自分がしていないかを振り返れます。「仕事は順調です」という一言の後ろに迷いが残っているとき、急いで結論を置かずに聴くための基礎になります。上司がカウンセラー役になるためではなく、相手の意味を取り違えない聴き方として学ぶのが適切です。
11.問いかけの作法(新版)
著者:安斎勇樹/研究知見・実践。書誌・内容紹介
相手を見立て、問いを組み立て、投げかけて反応を見る流れを学ぶ本です。ここで紹介するのは、2021年刊の旧版を再編集した2025年の新版。質問集を暗記するだけでは捉えにくい、問いかけの考え方を扱います。
定期面談で毎回同じ質問をしていると、相手の変化より、決まった答えを確認する場になりやすくなります。例えば、新しい役割を任せた後には「困っている?」だけでなく、「自分で決めてよいと思う範囲は変わった?」と尋ねる。状況に応じて問いを作り直したい管理職や、対話の研修を企画する人に向いています。
12.フィードバック入門(増補改訂版)
著者:中原淳/研究知見・実践。書誌・内容紹介
行動についての情報を相手に返し、改善や継続を支える技術を学ぶ本です。2025年の増補改訂版には、良い行動や強みを伝えるポジティブフィードバックの章も加わっています。
認識のズレは、困った行動を伝えないままにすることでも、良かった行動を言葉にしないことでも広がります。具体的な出来事について、上司の見え方と本人の意図を照らし合わせたいときに役立ちます。厳しいことをどう伝えるかをさらに考えたい場合は、部下に合わせた叱り方と育て方が学べる本25選も読む候補になります。
すれ違いと対立をほどく対話を学ぶ5冊
情報を足して説明しても伝わらないときは、同じ出来事に別の意味を与えているのかもしれません。お互いの見方を調べ、関係を組み直すための本です。
13.他者と働く
著者:宇田川元一/組織論・対話の実践。書誌・内容紹介
「わかりあえなさ」を出発点に、組織論とナラティヴ・アプローチから対話を考える本です。知識や手順を追加しても解けない問題を、関係の中で捉え直す視点を持てます。
上司には「責任ある仕事を任せた」と見える場面が、部下には「支援なしで押し付けられた」と見えている。どちらが正しいかをすぐに決める前に、相手の行動が本人にとってなぜ筋が通っているのかをたどれます。「あの人はいつもこうだ」という人物像が固まり、面談が平行線になっているときに読むと、自分の理解も動かす入口が見つかります。
14.組織が変わる
著者:宇田川元一/組織論・対話の実践。書誌・内容紹介
組織の慢性的な行き詰まりを対話から捉え直し、4人で行う「2 on 2」も紹介する本です。目次には弱いシグナルの検知や、小さな違和感から意味を探るセンスメイキングも登場します。
「明確なトラブルではないが、最近何かが変わった」という感覚を、放置せず調べたい人にとくに合います。1on1で聞いた話を一対一の関係だけに閉じず、複数の立場から見直す発想を得られます。ただし、本人が話した内容をそのまま他者へ共有するのではなく、共有できる範囲を確かめたうえで、組織の問題として扱う読み方が必要です。
15.ダイアローグ
著者:デヴィッド・ボーム/対話の思想・理論。書誌・内容紹介
物理学者・思想家ボームが、対話を通して意味や思考の前提を探る本です。業務面談の手順書ではなく、結論を急ぐ議論から少し距離を取り、考えの成り立ちを見つめるための理論的な読書に向きます。
上司が「普通はそうする」と言い、部下が「そうは思わない」と返すとき、正解を争う前に、その「普通」が何に支えられているかを考えられます。組織が変わるにつれて、以前の暗黙の了解が通じなくなった職場にも重ねられます。すべての面談を結論のない場にするのではなく、決める時間とは別に、前提を確かめる時間を持つための本です。
16.NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法(新版)
著者:マーシャル・B・ローゼンバーグ/対話・葛藤への実践。書誌・内容紹介
観察、感情、ニーズ、リクエストという切り口から、対立する相手とつながる対話を学ぶ実践書です。紹介する日本語の新版は、原著第3版に対応しています。効果を一律に保証する研究書としてではなく、伝え方を練習する本として読みたい1冊です。
例えば「最近、やる気がない」という評価をそのまま伝えると、相手は人格を決めつけられたと感じるかもしれません。「直近の会議で提案がなかった」と出来事を分け、何が起きているかを尋ねる練習につなげられます。会話の形式を相手に強制せず、上司が自分の決めつけや要求を整理するために使うと、対話を始めやすくなります。
17.組織を変える5つの対話
著者:Douglas Squirrel・Jeffrey Fredrick/実務・対話の訓練。書誌・内容紹介
信頼、不安、理由、コミットメント、責任についての対話を、会話の振り返りや訓練から学ぶ本です。ソフトウェア開発組織を背景としていますが、自分が口にしたことと、内心で考えていたことの違いを調べる方法は、他の職場にも応用を考えられます。
「了解です」と言いながら納得していなかったり、「任せます」と伝えながら失敗を恐れて介入していたりする場面を点検できます。気まずい1on1をただ反省するだけで終えず、どこで推測が入り、何を尋ね損ねたかを練習したい人向けです。部下の会話を採点するより、まず上司自身の対話を材料に読むと使いやすくなります。
上司自身と組織の変化を捉え直す5冊
社員を理解するための面談でも、上司の前提が固定したままでは、変化を受け止めきれません。組織の風土も含めて、どこを見直す必要があるかを考える本です。
18.なぜ人と組織は変われないのか
著者:ロバート・キーガン・リサ・ラスコウ・レイヒー/成人発達理論・実践事例。書誌・内容紹介
成人発達の理論と事例から、変わりたいと思っているのに変われない状態を探る本です。「免疫マップ」によって、改善の目標と、それを妨げる行動や前提の関係を調べます。
部下に任せたいと口では言いながら、細部まで決めてしまう上司にも、自分を守る理由があるかもしれません。自分の不安や前提を調べず、相手だけに主体性を求めていないかを考えられます。社員を発達段階で格付けするために使うのではなく、「いま自分は、何を恐れてこの接し方を続けているのか」と、上司自身が問いを向けるために読みたい本です。
19.なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか
著者:ロバート・キーガン・リサ・ラスコウ・レイヒー/成人発達理論・企業事例。書誌・内容紹介
失敗や限界を隠すために使っている力を、成長に向け直す組織を、企業事例から考える本です。個別の育成施策だけでなく、日々の仕事の中に自己変革をどう組み込むかを扱います。
1on1の間だけ率直に話すことを求めても、普段の評価や会議が「弱点を見せない方が得」になっていれば、話しにくさは残ります。その不整合を組織の慣行として考えたい経営者や人事担当者に向きます。取り上げられた企業の仕組みを丸ごと移すのではなく、上司も間違いや限界を認められるか、本人の開示を強制していないかを確かめながら読む本です。
20.学習する組織
著者:ピーター・M・センゲ/組織学習・システム思考。書誌・内容紹介
システム思考、メンタルモデル、共有ビジョン、チーム学習などを通して、人と組織が学び続ける条件を考える本です。個人の行動だけでなく、行動を生む関係や構造まで視野に入れられます。
例えば、短期成果を強く求めるほど失敗の報告が遅れ、上司は不信感からさらに管理を細かくする、という循環が考えられます。1on1で「報告を早くして」と言うだけでは戻ってしまう問題を、循環として考えるための読み方です。面談で得た情報を、目標設定や権限の渡し方、部門間の仕事の流れにもつなげたい人に向きます。
21.組織文化とリーダーシップ【原著第5版】
著者:エドガー・H・シャイン・ピーター・シャイン/組織文化の理論・事例。書誌・内容紹介
組織文化がどのように生まれ、成長段階やリーダーの行動を通じて変わるかを考える理論書です。ここで扱うのは、エドガー・H・シャインとピーター・シャインによる原著第5版の日本語訳です。
理念に「挑戦」と書いていても、失敗した社員への普段の接し方が違えば、社員はそちらを手がかりに行動します。1on1で聞こえてきた遠慮や諦めを、会社の暗黙の前提と結び付けて考えたいときに向きます。風土の変化を一律に止めるのではなく、どんな行動が実際に報われ、何が言いにくくなっているかを問い直すための本です。
22.組織行動のマネジメント(新版)
著者:スティーブン・P・ロビンス/組織行動学の教科書。書誌・内容紹介
組織で働く人の行動を、心理学や社会学などの知見から体系的に学ぶ教科書です。動機づけ、コミュニケーション、リーダーシップ、集団、組織文化といったテーマを横断して読めます。
今回の問題意識を、個々の対話術より広い理論の中に置きたい人向けです。意欲が落ちたように見えるとき、それが本人の好みなのか、仕事の特徴なのか、集団の規範なのかを整理する土台になります。日本語のこの版は2009年刊であり、近年の働き方の事例集としてではなく、組織行動を考える基礎として読むと位置づけが明確です。
意欲の変化と職場の状態を確かめる3冊
モチベーションを本人の性格で説明しきらず、日々の出来事や職場の状態から捉えるための本です。個人面談で聞けることと、複数の人の声やデータが必要なことを分けて考えられます。
23.モチベーション3.0
著者:ダニエル・ピンク/行動科学を紹介する一般書。書誌・内容紹介
内発的な動機づけについての行動科学を、一般読者向けに紹介する本です。自律性、熟達、目的という切り口から、報酬や指示以外に、人が仕事へ向かう理由を考えられます。商品カードは講談社+α文庫版です。
以前は新しい経験に意欲的だった社員が、いまは得意分野を深めたいと思っているかもしれません。「この人は挑戦が好き」という過去の理解を、そのまま仕事の割り当てに使っていないかを確かめられます。報酬を否定するための本としてではなく、「何を自分で決めたいか」「どの成長を実感したいか」を、本人に尋ねる視点として読むと実務につながります。
24.マネジャーの最も大切な仕事
著者:テレサ・アマビール・スティーブン・クレイマー/職場の日誌調査・実践。書誌・内容紹介
働く人の日々の心理状態と、仕事の進捗や周囲の支援の関係を調べた本です。26チーム・238人による約1万2000件の日誌を材料に、長期的な性格の違いだけでは見えない、毎日の変化を検討します。
今回の「人は常に変わる」という問題意識を、日々の出来事の水準で深めたいなら、有力な候補です。大きな成果が出たかだけでなく、小さな前進を何が止めているかに目を向けられます。1on1でも「最近やる気はある?」より、「前に進んだと感じた場面と、止まった場面はどこだった?」と聞く方が、上司が取り除ける障害を探しやすくなります。
25.サーベイ・フィードバック入門
著者:中原淳/研究知見・組織開発の実践。書誌・内容紹介
職場の状態を調査で可視化し、その結果を対話に返して、組織の変化につなげる方法を学ぶ本です。アンケートを実施して点数を集めることと、その結果から職場が学ぶことの違いを考えられます。
上司が直接聞く1on1だけでは、言いにくさや、部署全体の傾向を見落とすことがあります。複数の人に似た負担がないか、以前との変化がないかを調べたい人事担当者に向いています。小人数では匿名性を守りにくい点にも配慮し、低い点を付けた人を探すのではなく、結果をどう受け止め、何を変えるかを話し合うために使いたい本です。
読んだ知見を、認識を更新する1on1につなげる
読書を実務に移すなら、まず1回の面談で、前回から変わったことを一つ確かめてみます。例えば隔週30分で始め、本人の希望、仕事の変化、負担に応じて頻度や長さを相談する方法が考えられます。この頻度は運用の一例であり、すべての職場で効果が実証された基準ではありません。
話題の中心は、本人と合意して決めます。進捗確認が長引く場合は別の場に分けると、仕事の受け止め方や、上司への要望を扱う余地が生まれます。問いを使うときも、毎回すべてを尋ねる必要はありません。
| 確かめたい変化 | 会話の入口の例 | 上司が見直すこと |
|---|---|---|
| 仕事への期待と実感 | 前に話した仕事について、実際にやってみて印象が変わったところはある? | 役割の説明と実際の業務が食い違っていないか |
| 裁量と支援の境目 | 自分で決めたいところと、一緒に確認したいところはどこ? | 任せ方が、現在の習熟や希望に合っているか |
| 日々の前進と停滞 | 最近、進んだ実感があった場面と、止まった場面を教えてもらえる? | 判断待ち、手戻り、他部署との調整を放置していないか |
| 上司への話しにくさ | 私の反応や指示の出し方で、相談しづらくなることはある? | 反論、遮り、後からの指示変更が重なっていないか |
| 方針変更の受け止め方 | 会社の優先順位が変わったことで、納得しにくくなった部分はある? | 変更の理由や、評価との関係を説明できているか |
会話の最後には、認識が合った点と、まだ違う点を短く確認します。上司が判断を早める、依頼の背景を説明する、仕事の配分を見直すなど、誰が何をするかと確認時期を決めます。実行できなかったときも理由を返せば、「話したことが消えた」という受け止めを減らせます。
「問題ありません」が続くこと、発言が減ること、同じ困り事が繰り返されることは、追加で確かめるきっかけになります。ただし、その一つで意欲低下や不信を断定することはできません。仕事が落ち着いた、考えを整理しているなど、別の説明もあり得ます。過去の人物像に当てはめず、実際に起きた変化を本人と確かめます。
同じ上司には話しづらい問題もあります。別の管理職や人事と話せる接点を持つこと、個人面談で聞いた話の共有範囲を確認することも、声を拾う方法の一部です。風土の問題が見えてきたら、陰口や人間関係の悪化を生まない組織づくりの本も、対話と組織の仕組みを併せて考える材料になります。
日常業務に追われ、育成や定着のための時間を確保しにくい場合は、採用業務の分担から見直す方法もあります。Coreの採用代行・RPOでは、採用に関わる業務の切り分けについて相談できます。
まとめ
定期的な1on1を考える出発点は、社員・上司・会社について、以前得た理解がいまも合っているかを確かめることです。認識のズレそのものをなくそうとするより、ズレに気づき、話し合い、仕事や関わり方を変えられる接点を保つ方が現実的です。
まずは『組織が変わる』で小さな違和感を捉える視点を、『マネジャーの最も大切な仕事』で日々の意欲の変化を、『恐れのない組織』で声が出る条件を学ぶと、今回の関心を立体的に考えられます。1on1の進め方から入るなら『増補改訂版 ヤフーの1on1』、危機からの回復まで考えるなら『チームレジリエンス』が候補になります。
読んだ後は、部下に向ける質問を増やすだけでなく、自分の受け止め方と、その後の行動を一つ変えてみる。その変化を次の対話で確かめるところから、継続する意味が生まれます。
CONTACT
社員と向き合う時間を、採用業務の分担から考えませんか。
応募対応や日程調整などの採用実務が、育成や定着のための時間を圧迫している場合は、現在の体制を伺い、社内で担う業務と外部に任せる業務の切り分けを一緒に考えます。


























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