業務委託の優秀な人材と長期的な関係を築く「アライアンス」という方法|『ALLIANCE』に学ぶ

茶色と灰色の円や長方形を組み合わせた幾何学模様 人事・労務の基礎知識

優秀なマーケター、デザイナー、エンジニアほど、正社員ではなく業務委託で働く道を選ぶようになりました。採用する側から見ると、腕のいい外部人材に出会えても「3か月で契約が終わってしまった」「もっと条件のいい案件に移ってしまった」という形で関係が切れがちです。委託先は社員ではないので、引き止める材料が報酬の上積みくらいしかない、と感じている経営者・人事担当者は多いはずです。

この悩みに正面から答えてくれるのが、リンクトイン創業者リード・ホフマンらの著書『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)です。原著はシリコンバレーの「社員」を念頭に書かれていますが、読み進めるほど「これは日本の業務委託人材との付き合い方にこそ当てはまる」と感じました。今回は本書の一部を引用しながら、優秀な外部人材と長期的な関係を築く「アライアンス」という方法を紹介します。

『ALLIANCE』とはどんな本か

著者のリード・ホフマンはリンクトインの共同創業者で、ペイパル出身のシリコンバレーを代表する起業家です。本書の主張を一言でまとめると、「会社と個人の関係を、終身雇用でもフリーエージェントでもない、第三の形=『同盟(アライアンス)』として結び直そう」というものです。2015年の邦訳刊行から10年以上たちますが、副業解禁・フリーランス人口の増加が進んだ今の日本で読むほうが、むしろ実感を持って読めます。

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当サイトでは採用の技術を教科書で学ぶという記事でも本書を取り上げました。今回はその中から「コミットメント期間」という考え方に絞って掘り下げます。

アライアンス=「ミッションと期限」で結ぶ信頼関係

本書の土台にあるのは、会社と個人の関係を軍隊になぞらえる視点です。兵士は「軍そのもの」に一生仕えるのではなく、任務と配置の割り当て1回分、すなわち「ツアー・オブ・デューティ」を単位として務めます。著者はこの言葉を企業に持ち込む理由を、次のように説明します。

それは「ミッションを期限内に成し遂げることに専念し、そこに個人の信用をかけている」という考え方だ。

リード・ホフマン他『ALLIANCE』(ダイヤモンド社)より

終身雇用のように「ずっと一緒にいること」を約束するのではなく、かといってフリーエージェントのように案件ごとの割り切った取引で終わらせるのでもない。「この期間に、このミッションを一緒に成し遂げる」という具体的な約束を交わし、双方がそこに信用をかける。これがアライアンスの骨格です。

本書はこの約束の単位を「コミットメント期間」と呼びます。会社は特定のミッションに対する道義的な責任を負い、個人もミッションの完遂に責任を負う。終身雇用の安定とフリーエージェントの柔軟さ、両方の利点を取り込む設計になっています。

コミットメント期間——仕事の内容と期間をあらかじめ決める

リンクトインの実例:9年間を「4回の期間」として設計した

本書には、23歳で職歴がほぼ白紙だったデビッド・ハーンという人物が登場します。彼はリンクトインで過ごした9年間を、内容の異なる4回のコミットメント期間として設計しました。最初の期間は一スタッフとして働き、期間ごとに上司と「会社側の長期的利益」と「本人のキャリア」の両方につながる目標を定め直す。最後の期間にはバイスプレジデント(事業部長級)として収益サービス全般を管掌するまでになった、という実例です。

興味深いのは、ハーンがマネジャーになってからの行動です。彼は部下にも複数の分野で業務経験を積めるよう社内ローテーションを勧め、部下の多くが自分の下を離れることを承知のうえで、次のコミットメント期間への移行を後押ししました。著者はその姿勢をこうまとめています。

長期的関係のために定期的に仕事を変える――一見矛盾しているようだが、これが「コミットメント期間」(ツアー・オブ・デューティ)の枠組みの真髄である。

リード・ホフマン他『ALLIANCE』(ダイヤモンド社)より

「手放す覚悟があるから、長く付き合える」。この逆説が本書の面白さです。囲い込もうとするほど優秀な人は離れ、次の挑戦を一緒に設計する会社には戻ってくる・紹介してくれる・外からも力を貸してくれる、という構図です。

採用の場面でも「あいまいな約束」より強い

コミットメント期間は、採用の口説き文句としても機能します。「貴重な経験ができますよ」といったあいまいな誘い文句ではなく、「この2年で◯◯のミッションを統括し、◯◯のスキルと実績を持ち帰ってもらう」という具体的な提案を示せるからです。本書では、得られる経験が明快に見える提案のほうが、トップレベルの人材を惹きつけやすくなると説いています。これは求人広告の訴求にも、業務委託の発注交渉にもそのまま使える視点です。

なぜ「期間を区切る」ほうが関係は長続きするのか

小さな約束を守り合うことが信頼になる

人間関係の信頼は、一度の大きな誓いではなく、小さな約束を交わして守る、の繰り返しで積み上がります。本書はアライアンスをまさにその延長に置いています。

「アライアンス」が小さな約束の積み重ねでできているとすれば、「コミットメント期間」は約束の設計手法といってもいい。

リード・ホフマン他『ALLIANCE』(ダイヤモンド社)より

最初から10年の付き合いを約束する必要はありません。最初は小さな約束から始めて、守る実績を双方が重ねるごとに、次はもう少し大きな約束へ進む。雇う側・働く側どちらの負担も軽く、関係が深まるほど約束も育っていきます。

「離職を認めることにならないか」という疑問への答え

期間を区切ると聞くと、「辞めることを前提にするのか」と心配になるかもしれません。本書の答えは明快で、そもそも離職は会社が許す・許さないと決められるものではない、というものです。権限が会社にあると思い込んで囲い込むと、社員は会社に隠れて転職活動をするだけで、不誠実な関係を生む原因になります。むしろ期間の終わりがあらかじめ見えているからこそ、率直に次の関係を話し合えるのです。

コミットメント期間は、あらかじめ期間が決まっている。これがピリリとした緊張感をもたらし、また、将来の関係を話し合うための納得できる時間軸ともなる。

リード・ホフマン他『ALLIANCE』(ダイヤモンド社)より

期限のある約束は、最後まで全うしようという現実に根ざした動機を生みます。だらだらと続く契約よりも、区切りのある契約のほうが、双方とも誠実でいられるという指摘です。

業務委託の人材にこそ「アライアンス」が効く

ここからは本書を踏まえた私たちの解釈です。業務委託は雇用契約と違い、もともと期間と委託内容を定めて結ぶ契約です。つまりコミットメント期間の器を、契約形態として最初から持っていることになります。足りないのは契約書ではなく、その中身を「同盟」として設計する発想のほうです。順番にすると次のようになります。

  1. ミッションを1行で言語化する——「月80時間の稼働」ではなく「半年で採用サイト経由の応募を月20件に乗せる」のように、完遂の判定ができる形で定める。
  2. 相手が持ち帰るものを明文化する——報酬のほかに、実績として公表できる成果、身につくスキル、紹介できる人脈など、その人の次のキャリアに乗る利益を言葉にして渡す。
  3. 小さく始めて約束を守る——初回は2〜3か月の小さな単位で発注し、支払い・フィードバック・意思決定の速さといった発注側の約束を先に守る。
  4. 満了の1か月前に「次」を話し合う——更新するか、ミッションを変えるか、いったん卒業するか。期限が来てから慌てるのではなく、時間軸を共有したうえで率直に話す。
  5. 卒業後も同盟関係を続ける——契約が終わっても、情報交換や再依頼、人材の紹介といった形で関係は資産になる。リンクトインが退職者を「卒業生」として扱うのと同じ発想。

ひとつ注意があります。業務委託の人材には、雇用契約と違って発注側が業務の進め方を細かく指揮命令できません(指揮命令してしまうと、一般に「偽装請負」と判断されるおそれがあります)。だからこそ、時間や手順ではなくミッションと期間で合意するアライアンス型の設計が、法的な整理の面でも業務委託と相性がいいのです。

実際に私たちが支援したD2C企業の採用代行事例では、業務委託のマーケター・デザイナーを3か月で11名確保しましたが、応募が集まった求人ほど「何を任せ、何を持ち帰ってもらうか」が具体的に書かれていました。外部人材の募集設計から始めたい場合は、採用代行(RPO)で母集団形成から請け負えます。

まとめ

『ALLIANCE』が教えてくれるのは、「縛る」ことをあきらめた先にある関係の作り方です。ミッションと期間をあらかじめ決め、双方がそこに信用をかけ、小さな約束を守り合って次の約束へ進む。業務委託の優秀な人材と長く付き合いたいなら、報酬の上積みで引き止めるより先に、次のコミットメント期間を一緒に設計するほうが効きます。まずは今いちばん頼りにしている外部パートナー1人との契約を、「期間とミッションの約束」として書き直すところから始めてみてください。本書は224ページと薄く、経営者なら週末ひとつで読み切れます。

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