「業務委託に頼むと高くつくから、社員を1人採ろう」。経営会議や現場の打ち合わせで、こんな言葉を一度は聞いたことがあると思います。人事や管理部門の人間がこれを聞くと、たいてい反論したくなります。正社員には社会保険料の会社負担がある、採用費もかかる、辞めてもらうのは簡単ではない、固定費が増える。だから「正社員のほうが高い」が業界の常識で、「業務委託が高いから社員」は数字を見ていない人の理屈だ、と。
私たちも長くそう考えてきました。ただ、採用代行の仕事で多くの会社の「業務委託にするか、正社員を採るか」という相談に付き合っているうちに、この理屈は半分くらい正しいのではないかと思うようになりました。正確に言えば、「何に対して高いのか」を作業ではなく責任に置き換えたとき、この理屈はかなりの確率で当たっているのです。
このコラムでは、業務委託と正社員の使い分けを「責任の値段」という見方で考え直してみます。結論を先に書いておくと、ある仕事について「責任を負ってもらうこと」の値段が、業務委託より正社員のほうが安いなら、その仕事は正社員に任せる。反対に、責任を契約書で書き切れて、業務委託のほうが安く買えるなら外に出す。使い分けの判断は、この一本の物差しでかなり整理できます。
「正社員のほうが高い」という常識は、作業の値段で比べている
まず、常識のほうの言い分を数字で確認しておきます。年収500万円の正社員を1人採用した場合、会社が負担する金額は年収だけでは終わりません。
| 項目 | 金額の目安(年) | 中身 |
|---|---|---|
| 給与・賞与 | 500万円 | 本人に支払う額面 |
| 社会保険料などの会社負担 | 約75〜80万円 | 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・子ども子育て拠出金。給与のおおむね15〜16% |
| 採用費 | 150〜175万円(初年度) | 人材紹介を使った場合。紹介手数料は理論年収の30〜35%が相場 |
| 設備・教育・管理 | 30〜60万円 | PC・席・研修、上司や人事が使う時間 |
| 合計 | 初年度で約760〜810万円 | 2年目以降は採用費が抜けて600万円前後 |
一方、同じ職種の業務委託が月50万円なら年600万円です。社会保険料も採用費もかからず、繁忙期だけ稼働を増やし、閑散期は止めることもできます。作業時間あたりの値段で比べるかぎり、業務委託のほうが安い。ここまでは常識の言うとおりです。
ところが、この比較には前提が1つ隠れています。正社員と業務委託が「同じ仕事」をする、という前提です。現場で「業務委託だと高い」と言っている人は、実はこの前提を疑っています。口に出してはいないものの、頭の中で比べているのは作業量ではなく、「その人に何を背負ってもらえるか」のほうなのです。
業務委託の見積書には、責任が別料金で載っている
業務委託契約は、民法でいえば請負か準委任のどちらか、あるいはその組み合わせです。請負なら「仕事を完成させる責任」を負い、成果物に不具合があれば契約不適合責任を問えます。準委任なら完成の義務はなく、「専門家として注意深く仕事をする義務」(善管注意義務)を負います。どちらにしても、受託者が負う責任は契約書に書いた範囲の中に収まります。
ここで、委託先によくある頼み方を思い出してみてください。「結果が出るまで面倒を見てほしい」「何かあったら対応してほしい」「うちの担当者が育つまで付き合ってほしい」。こうお願いすると、腕のいいフリーランスほど見積を上げてきます。あるいは「それは範囲外なので」と丁寧に断られます。これは相手が不誠実だからではありません。範囲が決まっていない責任を引き受けるには、何が起きても対応できるだけの時間を空けておく必要があり、その時間には値段がつくからです。誠実な受託者ほど、引き受けた責任の分だけ単価を上げます。
しかも、その「あいまいな責任」を業務委託でお願いする余地は、年々狭まっています。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)では、発注する側に業務の内容・報酬・支払期日などを書面やメールで明示する義務が課されました。範囲を書いた以上、書いていない仕事は追加の発注になります。
さらに、範囲外の仕事を日々の指示で頼み始めると、別の問題も起きます。時間や手順を会社が細かく指示し、断る自由もない働き方になると、契約の名前が業務委託でも実態は雇用だと判断されるおそれがあります。いわゆる偽装請負や、労働者性の問題です。つまり「いい感じに責任を持ってやっておいて」という頼み方は、業務委託ではそもそも買えない商品だと言えます。
正社員の月給には、責任を引き受け続ける対価がならして入っている
雇用契約は、業務委託とは成り立ちが違います。正社員の職務範囲は、就業規則と労働契約の範囲内で包括的に決まっていて、会社は配置を変えたり、新しい仕事を割り当てたりできます。想定していなかったトラブルが起きたとき「これはあなたの担当だから対応してほしい」と言えるのは、雇用契約がそういう形をしているからです。
誤解のないように書いておくと、ここで言う責任は、損害の賠償を負わせるという意味ではありません。社員のミスで会社が損害を受けても、会社が社員に請求できる額は大きく制限されています。タンクローリーの事故をめぐる最高裁判決(茨石事件、1976年)では、会社から運転手への請求が損害額の4分の1に限られました。事業で利益を得ている会社が、事業のリスクも負うべきだという考え方です。正社員に「お金で責任を取らせる」ことは、ほぼできないと考えておくほうが正確です。
では正社員が負う責任とは何か。私たちは次の3つだと考えています。
- 判断を引き受ける責任:誰も決めていないことを、自分の担当として決める
- 結果が出るまでそこにいる責任:判断の結果が半年後、1年後に出るまで同じ席で見届ける
- 想定外に対応する責任:契約書や職務記述書に書かれていない事態を、まず自分のところで受け止める
正社員の月給は、この3つの対価を、毎月同じ額にならして払っている形になっています。トラブルが多い月でも少ない月でも給与は同じで、責任を果たした分は評価・昇給・昇格であとから調整します。業務委託が責任を「都度精算」で売るのに対して、正社員は責任を「定額」で引き受ける契約だと見ることができます。
定額と都度精算のどちらが安いかは、責任の量で決まります。想定外がほとんど起きない仕事なら、定額で抱えるのは割高です。想定外が業務の本体になっている仕事なら、都度精算のほうがすぐに定額を追い越します。「業務委託だと高い」という現場の実感は、たいていこの追い越しが起きている仕事について言われています。
責任込みで値段を並べると、答えが入れ替わる
具体的な2つの仕事で比べてみます。数字は、私たちが相談を受けるなかでよく見る水準を丸めたものです。
例1:月次決算と経理まわり
中小企業の経理を外部に出すとき、仕訳入力と月次の試算表作成だけなら、業務委託で月20〜25万円ほどで引き受けてくれる人が見つかります。作業の値段で比べれば、正社員よりずっと安い。
ところが実際に経理担当に期待しているのは、作業だけではないことが多いはずです。締めが遅れそうなときに現場の部署を追いかけて請求書を集める。税理士や金融機関からの問い合わせに会社の窓口として答える。支払いのミスが起きたら原因を調べて、取引先に謝りに行く。後任が入ったら仕事を教える。これらを全部含めて見積をお願いすると、月50〜55万円になるか、「そこまでは請けられない」と言われます。
同じ仕事を年収450万円の正社員に任せた場合、社会保険料などの会社負担を足して約520万円、採用費を3年で割って年45万円前後、管理の手間を足しても年600万円前後、月50万円ほどに収まります。そして正社員なら、2年目に新しい会計システムを入れることになっても、子会社の経理が増えても、追加の見積は出てきません。責任込みで比べると、この仕事は正社員のほうが安い。
例2:コーポレートサイトのリニューアル
反対の例も見ておきます。会社のWebサイトを作り直すとき、制作会社やフリーランスに請負で頼めば、150万円前後で完成までの責任を負ってもらえます。納品後に不具合が見つかれば、契約不適合責任で直してもらうこともできます。
これを正社員のデザイナーを採用してやろうとすると、年間の総額は600万円を超えます。リニューアルが終わった後に、その人に任せる仕事が社内にあるかどうかもわかりません。この仕事は、責任の中身が「指定の仕様でサイトを完成させること」として契約書に書き切れます。書き切れる責任は、業務委託で安く買えるのです。
| 経理まわり | サイトのリニューアル | |
|---|---|---|
| 作業だけの業務委託 | 月20〜25万円 | 請負150万円前後 |
| 責任込みの業務委託 | 月50〜55万円、または受託不可 | 請負150万円前後(完成責任込み) |
| 正社員 | 月50万円前後(総額) | 年600万円超 |
| 責任込みで安いのは | 正社員 | 業務委託 |
2つの仕事の違いは、作業の難しさではありません。責任を契約書に書き切れるかどうかです。書き切れない責任を業務委託で買おうとすると、受託者は書けない部分のリスクを単価に乗せるしかなく、値段が跳ね上がります。
正社員のほうが安くなるのは、責任が書き切れないとき
では、どんな仕事で責任が書き切れなくなるのか。相談の現場で見てきたかぎり、パターンはだいたい決まっています。
1つめは、想定外への対応が仕事の本体になっている場合です。カスタマーサポートの責任者、情報システムの担当、工場や店舗の運営管理などがそうです。何が起きるかを事前に列挙できないので、契約書に書けるのは「対応すること」という一般的な文言だけになります。受託者はそれを読んで、最悪の月を想定した単価を出してきます。
2つめは、判断の結果が出るまでに時間がかかる場合です。採用、人材育成、取引先との関係づくり、新しい事業の立ち上げは、判断してから結果がわかるまで半年から数年かかります。業務委託の契約は3か月や半年で更新されることが多く、結果が出る前に契約が終わると、判断の責任が宙に浮きます。1年後に「あの採用は失敗だった」とわかっても、その判断をした人はもう別の会社の案件をしているのです。結果まで見届けてもらうために長期契約を結ぼうとすると、受託者は他の案件を断る分の値段を求めます。
3つめは、社内の人に指示を出し、育てる場合です。部下を持ち、評価をつけ、仕事を教える役割は、業務委託にはなじみません。外部の人が社員の評価を決める形は社員の側も納得しにくく、会社としても人事の判断を社外に預けることになります。マネジメントの責任は、業務委託でいくら払っても買いにくいものの代表です。
4つめは、会社の名前で外に対して責任を負う場合です。顧客への謝罪、行政への届出、取引先との契約交渉、機密情報の管理など、「御社の担当者として」振る舞ってもらう必要がある仕事です。業務委託の人にこれを頼むと、相手から見た責任の所在があいまいになり、委託先自身も負いたくないリスクを負うことになります。
そして5つめは、この4つが同じ人に重なっている場合です。中小企業では、1人の担当者が想定外の対応もし、長い時間軸の判断もし、後輩を育て、取引先の窓口にもなっていることがよくあります。こういう仕事を業務委託に出そうとすると、見積は作業の値段の2倍、3倍になります。経営者が「業務委託だと高い」と感じるのは、たいていこの重なった仕事を外に出そうとしたときです。その感覚は、数字としても正しいのです。
それでも正社員が高くつく会社には、共通点がある
ここまで読むと、「やはり責任のある仕事は正社員に」という話に聞こえるかもしれません。ただ、この理屈には落とし穴があります。正社員が責任を安く引き受けてくれるのは、責任と一緒に権限と報酬も渡したときだけです。
よく見るのは、「責任を持ってやってほしい」と言いながら、決裁は全部社長が握っている会社です。担当者は判断を引き受けられず、毎回お伺いを立てることになります。これでは正社員は「作業をしてくれる人」でしかなく、作業の値段で比べれば業務委託のほうが安いという、最初の常識に戻ってしまいます。正社員の安さを手に入れたいなら、責任を負わせる範囲に見合った決裁の権限を渡す必要があります。
次に多いのが、責任を負っている人とそうでない人の評価が変わらない会社です。トラブルを受け止め、後輩を育て、取引先の窓口になっている人の給与が、決められた作業だけをしている人と同じだと、責任を負う人から順に辞めていきます。転職市場では、責任を引き受けてきた経験がそのまま値段になるからです。定額で責任を引き受けてもらう契約は、評価と昇給で調整されるという約束があって初めて成り立ちます。
最後は、そもそも責任を負える人を採れていない会社です。面接で「経理の経験は何年か」「どのソフトを使えるか」と作業の能力だけを確かめて採用すると、責任を負う場面で初めて「この人には任せられない」とわかります。正社員を責任の担い手として採るなら、面接でも、想定外の事態にどう対応してきたか、誰も決めていないことを決めた経験があるかを聞く必要があります。面談・面接の設計を見直すだけで、この採り間違いはかなり減らせます。
正社員の「安さ」は、雇用契約という形そのものから自動的に出てくるものではありません。責任・権限・報酬をそろえて渡す会社の運営があって、初めて業務委託より安くなります。
使い分けは「責任者を1人、社員で置く」ところから考える
こう考えていくと、業務委託と正社員の使い分けは、「どちらか一方を選ぶ」問題ではなくなります。1つの部署の中でも、責任の重い役割と、責任を契約書に書き切れる役割が混ざっているからです。
私たちがよく提案するのは、責任を負う人を1人、正社員で置き、書き切れる作業は業務委託に出すという形です。たとえばマーケティング部門なら、予算と成果に責任を持つ責任者を正社員で1人採り、広告運用・デザイン・記事制作は業務委託の専門家に任せます。責任者は委託先への発注内容を決め、成果物を受け取り、結果を社内に説明します。委託先の側は、範囲がはっきりした仕事を、得意な領域で引き受けられます。
実際に支援したD2C企業の採用代行事例でも、業務委託のマーケター・デザイナーを3か月で11名確保できたのは、社内に発注内容を決める担当者がいたからでした。業務委託の人材を現場でどう回すかは、業務委託人材でBPO案件を回す現場の流れでも詳しく書いています。
この形にしておくと、業務委託から正社員への切り替えどきも見えやすくなります。委託先に契約外の相談を頻繁にするようになった、更新のたびに単価が上がる、その人がいないと部署が回らない。こうした変化は、その人が作業ではなく責任を負い始めているサインです。責任の値段が正社員の総額を超えてきたなら、正社員として迎える話をしてもいい時期です。逆に、正社員として採ったものの任せられる責任が育たないなら、その役割は業務委託に戻すほうが会社にとっても本人にとっても合っています。
優秀な業務委託人材の中には、正社員にはならない働き方を選んでいる人も多くいます。そういう人と長く付き合うなら、責任を雇用で抱えてもらうのではなく、期間とミッションを区切って約束する方法もあります。その考え方は業務委託の優秀な人材と長期的な関係を築く「アライアンス」という方法で紹介しました。
雇用形態を決める前に責任を分解する
正社員か業務委託かを決める前に、その仕事で必要な責任を分解します。成果物を期限までに納める責任、顧客や社内へ説明する責任、例外時に判断する責任、後任を育てる責任は、同じ契約でなくても構いません。作業だけを外部へ出し、最終判断と顧客対応は社員が持つ形もあれば、専門家へ一定範囲の責任ごと委託する形もあります。
| 責任の種類 | 確認する質問 | 契約・配置で残すもの |
|---|---|---|
| 成果物 | 何が完成すれば終わりか | 品質、納期、修正範囲 |
| 判断 | 例外時に誰が決めるか | 権限、相談先、代行条件 |
| 継続 | 担当者が変わっても回るか | 記録、手順、引き継ぎ |
| 関係 | 誰が顧客や社内の窓口か | 連絡経路、説明責任 |
この分解をしないまま月額単価だけを比べると、社員には見えない管理・教育・調整の時間を足し忘れ、業務委託には仕様変更や緊急対応を無償で期待することになります。比較する単位を「一人の月額」から「必要な責任を満たすための総費用」へ変えると、判断の根拠がそろいます。
業務委託を選ぶときの境界線
業務委託が向くのは、成果物、期限、品質基準、連絡方法、修正の扱いを契約や運用に落とし込める仕事です。期間限定の専門業務、繁忙期だけ増える作業、社内に経験者がいない領域では、必要な責任の範囲を定義できれば外部の力を使いやすくなります。
一方で、会社の方針を日々判断する仕事、顧客との長期関係を一人で背負う仕事、他部署の人材育成や優先順位まで決める仕事は、責任を切り出しにくい傾向があります。その場合も、すべてを正社員に戻すのではなく、責任者を社員として置き、定型作業や専門作業を外部へ分ける方法を検討できます。
採用と委託を同時に比較する
採用を選ぶ場合は、募集から入社までの期間と、入社後に責任を持てるまでの立ち上がりを見積もります。業務委託なら、契約開始までの期間、引き継ぎ、稼働終了時の情報回収を含めます。短期の穴埋めと長期の責任者づくりを同じ選択肢に置かず、期間ごとに組み合わせると、固定費と現場負担を調整しやすくなります。
まとめ
「業務委託だと高いから正社員を使う」という理屈は、作業の値段で比べると間違って見えます。社会保険料、採用費、管理の手間を足せば、正社員のほうが高くつくのは事実です。けれど現場がこの言葉で比べているのは、作業ではなく責任の値段です。想定外に対応し、結果が出るまで残り、人を育て、会社の名前で外に立つ。こうした契約書に書き切れない責任を業務委託で買おうとすると、値段は作業の何倍にもなり、正社員の総額を簡単に超えます。その意味で、この理屈は意外と正しいのです。
次に「業務委託か、正社員か」で迷ったら、まずその仕事を作業と責任に分けてみてください。責任の部分を業務委託で買うといくらになるか、実際に見積を取ってみるのも1つの方法です。その金額が正社員の総額を超えるなら正社員を採り、責任・権限・報酬をそろえて渡す。超えないなら、責任を契約書に書いて外に出す。この順番で考えれば、使い分けの議論はずっと短くなります。
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その仕事は業務委託で足りるのか、責任を負う正社員を採るべきなのか。任せたい役割をうかがえれば、作業と責任の切り分けから、正社員の募集・面接、業務委託人材の確保までお手伝いします。


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