採用がうまくいかないとき、原因を「良い人に出会えていない」に置くと手が止まります。実際に止まっているのは、任せる仕事の決め方、合意する範囲、信頼の確かめ方、関係の続け方という技術の部分です。ここは経験や人柄ではなく、教科書で学べます。
人事代行のCoreが軸にしている教科書は、リード・ホフマン、ベン・カスノーカ、クリス・イェの『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(篠田真貴子 監訳/倉田幸信 訳/ダイヤモンド社/日本語版2015年)です。正社員だけの組織を前提にした本ではありませんが、会社と個人が相互に投資する関係を言葉にするという発想は、業務委託や副業の専門家と組む組織にそのまま効きます。
この記事の要点は5つです。
- アライアンスとは、雇用を「取引」ではなく「期間と成果を合意した関係」として扱う考え方
- 合意する内容は、ミッション・担当範囲・成果の見方・会社が出す支援・振り返る時期の5項目
- 正社員に残すのは、顧客理解と会社としての継続性(窓口・業務情報・進行・品質)
- 業務委託や副業の専門家には、判断できる情報と相談先を渡してから任せる
- 信頼は面談で測りきれないので、小さい範囲の仕事で確かめて広げる
以下では、この教科書の内容、Coreが実際にどう使っているか、併読している採用の技術書、自社で始める7つのステップまでを順に書きます。採用の工程そのものを帳票レベルで組み直したい場合は採用を仕組み化する本30選、等級や評価と対応させたい場合は組織づくりと等級制度がわかる本30選に、工程別の本を並べています。
『ALLIANCE』はどんな本か
LinkedInの共同創業者であるリード・ホフマンらが、会社と働く人の関係を「同盟(アライアンス)」として設計する枠組みを示した本です。ホフマンはPayPalでエグゼクティブ・バイスプレジデントとして社外との関係を担当し、2009年からベンチャーキャピタルのGreylockでパートナーを務めています。共著者のベン・カスノーカはホフマンのチーフ・オブ・スタッフを務めた起業家、クリス・イェも起業家・投資家として企業を支援してきた人物です。
人と人、会社と会社のつながりが事業の成長にどうつながるかを実務で扱ってきた著者たちが、会社と個人の関係を論じている——ここがこの本の立ち位置です。雇用の法制度や日本の労務実務を解説する本ではないため、契約形態ごとの条文や単価の相場は別の資料で押さえる前提になります。
アライアンスとは何か
本書は目的をこう書いています。
本書の目的は、雇用を「取引」ではなく「関係」としてとらえるための枠組みを示すことにある。
仕事には、時間や労力を受け取って対価を払うという取引の面が当然あります。そのうえで本書は、会社と個人が相手にどのような価値をもたらし、その関係にどう投資するかを扱います。会社は事業への貢献を期待し、同時にその人の成長に時間と労力を使う。本人は得たいスキルと経験を率直に伝え、その機会を通じて会社にどう貢献するかを明らかにする。相互の期待を言葉にすることが、信頼して仕事に取り組む土台になるという考え方です。
会社側の姿勢を表す一文として、本書にはこうあります。
当社の価値向上に力を貸してほしい。当社も『あなた』の価値を向上させよう
働く側からの表明も同じ形で示されています。
私が成長し活躍できるように手を貸してください。私も会社が成長し活躍するための力になりましょう
この2文は、経営者が自分に問い直す材料として読めます。人に協力を求めるのであれば、協力してくれる人の仕事と人生に対して自社は何を提供できるのか。専門性を発揮できるか、納得できる条件か、関わった経験が次の機会につながるか。相手側の事情まで含めて仕事を設計するという姿勢が、採用の技術の出発点になります。
ツアー・オブ・デューティ:期間と成果を区切って合意する
本書の中心的な道具が「ツアー・オブ・デューティ」です。会社が得る成果と、個人が得るスキルや経験を具体化し、見通しのある期間で1つのミッションに取り組む。終われば次のミッション、その次のミッションへと進む、という設計です。
この考え方を依頼の形に落とすと、合意すべき項目は5つに整理できます。
| 合意する項目 | 決める内容 | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| ミッション | この仕事で会社と顧客の何が変わるのか | 作業の指示待ちになり、提案が出てこない |
| 担当範囲 | どこからどこまでを担うのか、判断してよい範囲 | 確認の往復が増え、二重の手戻りが起きる |
| 成果の見方 | 何を見て成果と判断するのか、期限はいつか | 評価が印象論になり、報酬の納得が崩れる |
| 会社が出す支援 | 渡す情報、相談先、使えるツールと予算 | 能力のある人でも仕事を進められない |
| 振り返る時期 | いつ、誰と、何を基準に見直すのか | 続けるか変えるかの判断が先送りになる |
たとえば広告運用を任せるとき、「毎月、広告を運用してください」では期待する範囲が見えません。現状の計測を確認するのか、配信構造を整理するのか、日々の調整を担うのか、クリエイティブの改善提案まで含むのか。成果の見方も、問い合わせの件数だけを見るのか、商談につながる問い合わせが必要なのか、データが少ないので検証できる状態を整えること自体が成果なのかで変わります。同じ「広告運用」でも、合意の中身は案件ごとに違うという前提で書き出すのが、この道具の使い方です。
本人の側でも、得意な領域で安定して仕事を続けたいのか、設計から改善まで一貫して経験したいのか、特定の業界への理解を深めたいのかで適したミッションが変わります。会社の必要と本人の目標が重なる部分を探し、任せる理由をお互いに説明できる状態にしてから始めます。
Coreがこの技術をどう使っているか
Coreは、正社員を軸に置きながら、業務委託・アルバイト・副業の専門家と組んで事業を進めています。得意なことも、関われる時間も、求める報酬も、これから積みたい経験も人によって違う。その違いを前提に仕事を組み立て、顧客に提供できる価値を広げることを狙っています。以下は、教科書の考え方を日々の運用に落とすために決めている点です。
正社員が担うのは、顧客理解と会社としての継続性
多様な人材と組むほど、社内に残すべき役割がはっきりします。Coreが正社員に置いているのは、顧客の事業を継続して理解し、会社として判断し、案件をつなぐ役割です。
顧客が何を目指しているのか。これまでどんな提案をして、何を試し、なぜ今の方針になったのか。何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか。この背景を踏まえて仕事を進めるには、作業を実行する力に加えて案件全体を見続ける人が必要になります。社内の担当者やPMが窓口・業務情報・進行・品質を管理し、案件や媒体ごとに協力者と役割を分担する形にしているのは、担当する人が増えても顧客に同じ説明を何度もお願いしないためです。
外部の方が企画や判断を担うこともあり、正社員が専門家として実務に深く入ることもあります。役割は本人の能力と案件の必要に合わせて決めますが、顧客との関係を会社として引き受ける基盤は社内に持つ、という線は動かしていません。
働き方の違いを、そのまま役割に結びつける
正社員か業務委託かという区分だけでは、その人がどこで力を発揮するかは分かりません。同じ広告運用の経験者でも、初期設計に強い人、日々の運用改善に強い人、分析と説明に強い人では、適した役割が違います。
関われる時間の取り方も違います。継続して一定の業務を担いやすい人もいれば、特定の期間に集中してプロジェクトに入るほうが力が出る人もいます。高度な技術を持つ人に、常に即時対応が必要な窓口業務までまとめて依頼すると、得意なことと依頼内容がずれます。逆に、顧客との調整や運用を安定させる力を持つ人には、その力が発揮できる仕事を用意する必要があります。
やっているのは、人の特徴を理解し、仕事の条件を先に明らかにしてから組み合わせるという順番の固定です。その人ができること、引き受けたいこと、会社が期待すること——この3つを話し合って一致させてから着手します。
専門家には、判断できる情報と相談先を渡す
専門性のある人に任せるなら、その人が自分の経験を使って判断できる状態をつくる必要があります。目的と背景に加えて、判断してよい範囲と相談先がそろって初めて動けます。
何を変更してよいか分からない、どこまで提案してよいか分からない、判断を求めても返答がない。この状態では、能力のある人でも仕事が進みません。会社側が必要な説明をしていないのに主体性だけを期待する形では、協力関係は育ちません。渡す情報は、顧客の目的、対象業務、予算と期限、確認が必要な事項、報告の方法の5点を最低限にしています。
引継ぎと記録で、会社に知識を残す
多様な人と組む体制を続けるには、仕事の背景と判断の理由が会社に残る必要があります。誰が担当しているかに加えて、どういう経緯で今の状態になっているかが分かる状態です。
Coreでは引継ぎを社内が主導し、担当者が変わるときにも業務がつながる形にしています。引継ぎに必要な情報と、代わりに動ける人との連携を整えておけば、過去の判断や未完了の課題が担当者の交代で途切れません。この蓄積は次の案件にも効きます。どんな役割が必要だったか、何を先に確認すれば進めやすかったか、どの連携が有効だったか。顧客固有の情報は守りながら、進め方の学びは会社の知識として残します。
報酬と評価は、本人が動かせる範囲で決める
成長機会を用意する前に、報酬と仕事の条件をきちんと話すのが順番です。何を担うのか、どれだけの責任を持つのか、どこまでが依頼の範囲なのかが分かったうえで、本人が納得して参加できる状態にします。
そのために、依頼する時点で何を評価するのかを言葉にします。成果物の品質、合意した期限、必要な共有、改善への貢献など、役割に合った基準を置きます。ここで切り分けが要るのは、本人だけでは動かせない要因です。広告の担当者に、顧客の営業体制や商品の条件まで含めた売上のすべてを一人で引き受けてもらうことはできません。何を改善できる立場なのか、何には他の人の協力が必要なのかを共有すると、責任と評価が具体的になります。
信頼は、小さい範囲の仕事で確かめて広げる
任せる相手の能力と進め方は、面談だけでは分かりません。最初から大きな範囲を渡すのではなく、仕事の一部を通じてお互いを知り、合うところを確かめながら範囲を広げます。試行的に依頼する場合でも、依頼する仕事と条件を決め、会社側も必要な情報を渡すところは変えません。
見るのは成果物の出来だけではありません。分からないことを確認できるか。前提が変わったときに共有できるか。合意した範囲で仕事を進められるか。改善の相談をしたときに、お互いの考えを話せるか。実際に仕事をすると分かることがあります。
同時に、相手も会社を見ています。依頼の内容は明確か。質問に答えてくれるか。決めるべきことを決めてくれるか。範囲と条件を尊重してくれるか。会社が相手を理解する機会は、相手が会社を理解する機会でもある——この前提で初回の仕事を設計すると、断られる理由も見えてきます。
案件をつくる活動と、人材との接点をつくる活動をつなぐ
売上を伸ばすには、営業で仕事の機会をつくることと、その仕事を担える人との関係をつくることを連動させる必要があります。受注してから人を探すと、専門性や条件をすり合わせる時間が足りません。一方で、人とつながっていても、その人がどんな案件なら力を発揮するのか分からなければ、適切に相談できません。
注意しているのは、以前の情報がそのまま現在も当てはまるとは限らない点です。本人の仕事の状況も、関心も、関われる時間も変わります。候補として名前があることと、今回の仕事を引き受けられることは別なので、分けて確認します。営業側で見えている案件の種類と時期、協力者側の専門性と状況を照らし合わせ、いつ・どの範囲なら責任を持って提案できるかを判断する。ここまでつなぐと、受注と提供体制のずれが減ります。
この仕組みづくりは、経営者が人を探し続け、案件のたびにすべてを調整する状態から抜けることでもあります。関係を築く仕事と、人と案件の組み合わせを判断する仕事を、会社の機能として育てる——その意味では、採用は経営者の個人技ではなく会社の工程です。工程として外に出す形は採用代行(RPO)、一次面談だけを切り出す形は面談・面接代行になります。
関わり方が変わった後も、協力の可能性を残す
本書には、会社を離れた人とのネットワークを通じて仕事の機会と知識を共有し、協力関係を続ける考え方も示されています。正社員として関わる期間、業務委託として特定の仕事を担う期間、別の仕事に集中する期間——人によって会社との距離や役割は変わります。
この可能性は、それまでの仕事で信頼が積み上がっているから生まれます。条件の話を曖昧にせず、貢献を認め、必要な情報を共有し、終えるときにも仕事を丁寧につなぐ。今の関係を誠実に扱うことが、その先の関係につながります。会社にとって人とのつながりは事業の可能性を広げるもので、本人にとっても、その会社と仕事をした経験が将来の相談先や協力先につながることがあります。
受注が増えた後の体制まで、先に考える
案件の数が増えれば、実作業に加えて顧客対応、確認、調整、引継ぎの仕事も増えます。この負担を把握していないと、社内の特定の人に仕事が集中します。同じ売上でも、無理な調整が続かないと成り立たない仕事と、役割が明確で安定して進む仕事では、その先の広げ方が変わります。提供に使う費用と時間を見ながら、顧客への価値と継続性の両方を見る——人を増やす判断は、ここまで含めて決めています。
広告の相談を、制作や営業までつなげると何が変わるか
提供できる価値を広げるという話は、抽象的になりがちなので具体例で書きます。「広告経由の問い合わせを増やしたい」という相談をいただいた場面を考えます。
配信対象や訴求に課題があれば、広告の専門家が改善します。LPでサービスの内容や対象者が伝わっていなければ、デザイナーとライターの力を借ります。フォームの操作や計測に問題があれば、開発や計測を担う人が必要です。問い合わせ後の対応に課題があるなら、営業側の運用も一緒に考えます。
ここで大事なのは、顧客の課題を起点にする点です。提供できるメニューが増えたからといって、すべてを一度に提案する必要はありません。いまの事業にとって何を優先すべきかを考え、必要な支援を必要な順番で組み合わせる。その判断自体が会社の担う価値になります。人が増えた時点で売上が伸びるわけではなく、専門性を課題に結びつけ、提案し、約束した仕事を実行し、評価していただくところまで進めて初めて事業の成長になります。
営業支援では、現場の情報を次の提案に生かす
営業支援の仕事でも、役割がつながることで支援の内容を深められます。社員やPMと業務委託のメンバーを組み合わせ、案件ごとに仕事を進める形です。
接点をつくる人、提案を担う人、全体を管理する人が、それぞれの仕事から学びを持ち寄る。断られた理由、反応が良かった切り口、商談で詰まる論点——こうした情報は、担当者の頭の中に残ったままでは次の提案に効きません。持ち寄る場と記録の形を決めておくと、案件を増やしながら仕事の質も上げられます。
協力してくれる人の成長に、会社は何を提供できるか
相互投資という以上、会社側が個人の成長に何を出せるかを決めておく必要があります。研修の機会を用意することもその1つですが、日々の仕事の中にも提供できるものがあります。
たとえば、実績として紹介できる経験が必要な人には、顧客との取り決めを踏まえて、公開できる範囲と紹介の方法を一緒に考えられます。扱える予算の規模、関われる工程の広さ、他の専門家と組む機会、判断を任される範囲も、本人にとっては経験の中身です。会社に蓄積する成果と、本人が次の場で説明できる経験の両方を残す——ここを依頼の設計に入れておくと、報酬だけで比較されない関係になります。
「売上を伸ばす」を、採用の言葉に翻訳する
経営側の目標は、売上そのもの(トップライン)の成長です。これを採用の言葉に翻訳すると、やることは2つに分かれます。受けられる仕事を増やすことと、1つひとつの仕事で提供できる価値を高めることです。
| やりたいこと | 採用・体制側でやること | 決めておく数字 |
|---|---|---|
| これまで断っていた案件に提案できるようにする | 不足している専門性を特定し、常勤か業務委託かを決めて確保する | 何件の受注で追加費用を賄えるか |
| 既存の顧客から次の仕事を任せてもらう | 現在の支援から見えた課題に応える役割を組み合わせる | 1社あたりの支援範囲と単価の上限 |
| 同じ案件の品質を上げる | 確認・調整・引継ぎを担う社内の工数を確保する | 案件1件あたりの管理工数 |
| 受注が増えた後も回る状態にする | 窓口と進行の担当を分け、代わりに動ける人を決める | 1人が同時に持てる案件数 |
人を増やす判断で迷うのは、増やした瞬間に固定費が増えるからです。採用と教育は固定費なので、何件の受注または何円の単価上昇で元に戻るのかを先に出しておくと、途中で止める・続ける判断が感情論になりません。この計算の手順はグループ経営の管理会計がわかる本32選に、固定費投資と回収の考え方としてまとめています。
依頼書の書き方:3つの記入例
合意する5項目(ミッション・担当範囲・成果の見方・会社が出す支援・振り返る時期)を、実際の仕事に当てた例です。書き方の見本として使えます。
例1:広告運用の日次調整を任せる
- ミッション:問い合わせの件数ではなく、商談につながる問い合わせを増やせる配信状態をつくる
- 担当範囲:入札・予算配分・除外キーワードの調整は本人判断。訴求の方向転換とLP変更の依頼は相談。新規媒体の追加は対象外
- 成果の見方:商談化した問い合わせの件数と単価。初月は計測が正しく動いている状態をつくるまでを成果にする
- 会社が出す支援:過去6か月の配信実績、商談化の判定ルール、相談先(担当PM)、週1回15分の確認
- 振り返る時期:1か月後に範囲、3か月後に継続と報酬を見直す
例2:記事の編集を任せる
- ミッション:問い合わせの前に読者が確認したい点に答えられる記事を、月4本の水準で出せる状態にする
- 担当範囲:構成・見出し・本文の修正は本人判断。扱うテーマの追加と、事実関係の確認が必要な記述は相談
- 成果の見方:公開本数と、差し戻しの回数。記事ごとの順位は本人だけで動かせないので評価に含めない
- 会社が出す支援:過去記事と表記ルール、確認を取る担当者、参考にする一次情報の入手方法
- 振り返る時期:2本目の公開後に書式を見直し、2か月後に本数と単価を見直す
例3:問い合わせ対応を任せる
- ミッション:問い合わせから初回返信までの時間を短くし、日程調整まで完了した状態で担当へ渡す
- 担当範囲:定型の返信と日程調整は本人判断。見積もりに関する回答と、条件の例外は相談
- 成果の見方:初回返信までの時間と、日程確定までの件数。受注の有無は評価に含めない
- 会社が出す支援:返信の文例、空き枠の確認方法、判断できない場合の連絡先と期待する返答時間
- 振り返る時期:2週間後に文例を更新し、1か月後に対応範囲を見直す
3例に共通するのは、本人が動かせない指標を成果に入れていない点です。受注、順位、売上は複数の要因で動きます。評価に入れるのは、その役割で改善できる部分に絞り、全体の結果は会社が引き受けます。
アライアンスの考え方を、採用の工程に当てはめる
関係の設計は、入社・稼働開始の前から始まります。工程ごとに「何を言葉にするか」を並べると、募集から開始後までが一本につながります。
| 工程 | 言葉にすること | やりがちな失敗 |
|---|---|---|
| 募集 | 任せる仕事のミッションと、関わり方の選択肢(常勤・業務委託・特定工程のみ) | 職種名と経験年数だけを書き、何を任せるかを書かない |
| 一次面談 | 本人が積みたい経験と、関われる時間の取り方 | 会社が得たいことだけを確認して終わる |
| 選考・判断 | 役割に必要な行動を、過去の事実で確認する観点 | 熱意や相性の印象で判断し、面接官ごとに基準が違う |
| 条件提示 | 報酬の決まり方、評価する項目、本人が動かせない要因の扱い | 金額だけを伝え、何を評価するかを伝えない |
| 開始前 | 渡す情報、相談先、判断してよい範囲、最初の成果物 | 初日に資料だけ渡して、判断範囲を決めていない |
| 開始後 | 振り返る時期と、範囲を広げる条件 | 問題が起きるまで振り返らず、継続の判断が曖昧になる |
| 関わり方の変更時 | 引継ぎの範囲と、今後の協力の可能性 | 終わり方を設計せず、知識も関係も残らない |
工程ごとに担当と終了条件を決めると、人が増えても運用が崩れません。募集原稿の側から整える場合は求人広告の運用代行、応募対応と一次面談の工程を外に出す場合は採用代行(RPO)が対応する範囲です。採用ページで何をどこまで書くかは採用ページの作り方にまとめています。
この教科書に書かれていないこと
1冊で全部そろう本ではないので、足りない範囲も書いておきます。
- 契約と法務:業務委託契約の条文、指揮命令の線引き、報酬の支払条件は扱いません。日本の労務実務は別の資料で確認します。業務委託と派遣の違いは派遣と業務委託の違いが該当します。
- 面接の様式:質問の順序、評定の段階数、面接官の分担といった帳票はありません。ここは『Hire With Your Head』と『The Hiring Handbook』が担当します。
- 単価と原価:1人あたりの時間単価、案件別の粗利、工数の配賦は対象外です。固定費として見る計算は管理会計側の技術になります。
- 等級と報酬テーブル:関わり方の違う人を同じ組織の中でどう位置づけるかという制度設計は入っていません。組織づくりと等級制度がわかる本30選が対応する範囲です。
- 日本の事例:原著の事例はシリコンバレーの企業が中心です。日本語版は2015年刊行なので、紹介されている企業の状況は当時のものとして読みます。
また、本書は「期間を区切って合意する」という形を推奨しますが、これは短期で入れ替える前提の制度ではありません。期間を区切るのは、お互いの期待を具体的に話せるようにするためで、同じ会社で次のミッションに進むことも想定されています。雇用の不安定化を正当化する読み方にならないよう、ここは切り分けて使っています。
『ALLIANCE』と一緒に使っている採用の技術書
『ALLIANCE』は関係の設計を扱う本で、面接の進め方や評価票の様式は入っていません。実務で足りなくなる部分は、次の本で補っています。
選考を標準化する4冊
人を選ぶ技術
小野壮彦/フォレスト出版/2022年
経営幹部の採用に携わってきた著者が、人を見る順序を整理した本です。印象や相性で判断してしまう場面を、過去の行動と再現性の確認に置き換える考え方がまとまっています。面接官が増える前に、見る観点を社内でそろえる段階で効きます。
世界標準の採用
小野壮彦/日経BP/2025年
面接官の選定と育成、評価のすり合わせ、採用プロセス、採用データの構造化、責任分担、要件定義、スカウト運用、人材プールを扱います。第3〜4章から読み、「誰が最終判断を持ち、どの材料で判定するか」を決める順番で使うと、査定会議の設計に直結します。
採用基準のつくり方
鈴木洋平/クロスメディア・パブリッシング/2025年
求める人材像・評価要素・評価基準・採用基準を順に定義し、行動観察と事実を確かめる質問へつなぐ本です。過去の実績、面談での話し方、実務課題での行動を同じ欄で混ぜて評価してしまう状態を分解できます。ミッションを決めたあと、その内容を選考基準に翻訳する工程がここです。
Hire With Your Head
Lou Adler/John Wiley & Sons/2021年/英語
職務を経験年数ではなく「最初の期間に出す成果」で定義し、その定義から面接の質問と採点票までをつなぐ本です。第7章の成果要件、第8章の電話面談、第9章の8ステップ面接、第10章の評定票と採否会議が実務で引く場所で、付録2に様式がそろっています。ツアー・オブ・デューティで決めた成果を、面接で確認できる形に落とす道具として使えます。
The Hiring Handbook
Kasey Harboe Guentert、Mollie Berke/Kogan Page/2025年/英語
職務分析から質問設計、面接ガイド、行動基準評定尺度、複数面接官での採否決定までを様式つきで扱います。記録してから評価する順序を統一するという原則が、表の形で示されているのが使いやすい点です。業務委託で使う場合は、職務プロフィールを契約上の成果と協働条件に置き換えて読みます。
多様な人材に任せる3冊
任せるコツ
山本渉/すばる舎/2023年
依頼の方法、相手選び、任せる前後の対応、相手に応じた任せ方を扱う実務書です。第1〜3章が核で、仕事を自分で抱えがちな状態から、任せる範囲を一段ずつ広げる手順が書かれています。想定は上司と部下の関係なので、業務委託では合意した範囲と相手の裁量に合わせた調整が入ります。
副業人材活用の戦略
砂川大輔/整流出版/2026年
副業人材を受け入れる側の準備を扱う本です。週に数時間しか関われない専門家に何を任せ、どこを社内で持つかという線引きの参考になります。関わる時間が短い人ほど、依頼の粒度と判断範囲を先に決める必要があるという点が、教科書の内容と重なります。
アルバイト・パート[採用・育成]入門
中原淳、パーソルグループ/ダイヤモンド社/2016年
募集段階で応募者の希望を把握する、入社前に仕事の実情を伝えて期待のずれを減らす、不満を報酬・人間関係・成長の3面から点検する——短時間で働く人の採用から定着までを扱います。背景は店舗運営なので、事務や制作の仕事に当てるには置き換えが必要です。短時間勤務の募集を実務として進めるならフリーターをアルバイト採用する方法と並行して使えます。
任せられる関係の土台をつくる2冊
恐れのない組織
エイミー・C・エドモンドソン/英治出版/2021年
心理的安全性の研究をまとめた本です。分からないことを確認できるか、前提が変わったときに共有できるか——信頼を確かめる観点として挙げた項目は、この本の概念に対応します。発言しても損をしない状態をどうつくるかという視点で読みます。
チームが機能するとはどういうことか
エイミー・C・エドモンドソン/英治出版/2014年
固定メンバーではないチームが、その場で協力して成果を出す「チーミング」を扱う本です。案件ごとに人の組み合わせが変わる体制では、毎回チームを組み直すことになります。初対面に近い相手と短期間で成果を出すために何を共有するかという論点が、業務委託中心の体制に当てはまります。
自社で始める7つのステップ
教科書を読んだあと、手を動かす順番です。1つのステップで1枚の書式を作ると、翌月から運用に乗ります。
- いま外に出したい仕事を1つ選ぶ。全部をいっぺんに設計しない。広告運用の日次調整、記事の編集、問い合わせ対応など、繰り返し発生していて説明できる仕事から選びます。
- ミッションを1文で書く。「この仕事で顧客と自社の何が変わるか」を書きます。作業名(記事を書く)ではなく変化(問い合わせに答えられる記事を増やす)で書くのがコツです。
- 担当範囲と判断してよい範囲を分けて書く。やること、やらないこと、本人が決めてよいこと、相談が必要なことの4欄にします。
- 成果の見方と期限を決める。本人が動かせる指標に絞ります。全社売上ではなく、成果物の品質・期限・改善提案の有無など、役割に対応する基準にします。
- 会社が出す支援を書き出す。渡す情報、相談先と連絡手段、使えるツールと予算、確認の頻度。ここが空欄のまま依頼すると、能力のある人でも止まります。
- 小さい範囲で1回やってみて、記録する。成果物の出来に加えて、確認の取り方、前提変更の共有、範囲の守り方を見ます。相手から見た自社の対応(返答の速さ、決める力)も記録します。
- 振り返って、範囲か支援か人の組み合わせを変える。うまく進んだら範囲を広げる。難しければ支援を足すか、役割の組み合わせを見直す。この繰り返しが、教科書の言う相互投資の実行部分です。
7つのうち最初に効くのは2と5です。ミッションが1文で書けない仕事は、まだ任せられる形になっていません。会社が出す支援を書けない仕事は、任せても戻ってきます。
よくある質問
『ALLIANCE』は正社員向けの本では。業務委託にも使えますか
本書が扱うのは主に会社と従業員の関係です。そのまま当てはまるのは、相互の期待を言葉にする、期間と成果を区切る、終わるときにも関係を丁寧に扱う——という部分です。契約形態ごとの責任・権限・報酬の決め方は別に整理する必要があります。業務委託と派遣の線引きは派遣と業務委託の違いを先に確認してください。
採用の本は何冊も読めません。1冊だけならどれですか
関係の設計から入るなら『ALLIANCE』、面接と評価票をすぐ作りたいなら『世界標準の採用』です。目的が違うので、いま止まっている場所で選びます。「良い人が来ない」で止まっているなら前者、「面接の判断がばらつく」で止まっているなら後者が近い内容です。
小さい会社でも、ここまで書面を作る必要がありますか
必要なのは全部ではなく、依頼書1枚です。ミッション・担当範囲・成果の見方・会社が出す支援・振り返る時期の5項目が入っていれば足ります。人数が少ない会社ほど、説明する人が1人に集中するので、書いたほうが時間が戻ります。
業務委託の人に「自律的に動いてほしい」と伝えても動きません
多くの場合、渡し方の問題です。1つの成果物について、完成形、入口に必要な情報、判断してよい範囲、確認を取る事項、提出先が1枚になっているかを確認してください。この5つがそろうと、確認の往復が減ります。自律性は姿勢ではなく、情報と範囲が決まっているかどうかで決まります。
信頼できるかどうかを、面談で見分ける方法はありますか
面談で分かるのは、過去の行動の説明の具体性までです。合意した範囲で進められるか、前提が変わったときに共有できるかは、小さい範囲の仕事を1回お願いすると見えます。選考で見る部分と、仕事で見る部分を分けて設計するのが現実的です。面接の設計そのものは『Hire With Your Head』の第9章と『採用基準のつくり方』の第3章が対応します。
教科書どおりにやる時間がありません
1冊に対して書式1枚、と決めるところから始められます。『ALLIANCE』なら依頼書の5項目、『世界標準の採用』なら評価のすり合わせ手順、『任せるコツ』なら依頼前後のチェック。書式が1枚できると次の担当者に渡せるので、説明に使っていた時間が戻ります。工程ごとに外に出す選択肢と費用の考え方はよくある質問にまとめています。
まとめ
採用の技術は、才能ではなく手順と書式で持てます。『ALLIANCE』から取り出せるのは、雇用を取引ではなく関係として扱うという前提、ミッションと期間を区切って合意するという道具、そして終わったあとも協力の可能性を残すという姿勢です。
手を動かす順番は、任せたい仕事を1つ選ぶ、ミッションを1文で書く、担当範囲と判断範囲を分ける、本人が動かせる成果の見方を決める、会社が出す支援を書き出す、小さく1回試す、振り返って範囲を広げる——この7つです。正社員には顧客理解と継続性を残し、専門性は外部も含めて組み合わせる。この形なら、人が増えるほど引き受けられる仕事が広がります。
教科書に書かれていないのは、自社の案件の利益率に対して人と仕組みにいくらまで乗せられるか、という水準です。ここは実測した工数と単価から決める部分として切り分けておくと、読書が判断に変わります。
CONTACT
任せたい仕事を1つ、言葉にするところから一緒に。
依頼書の5項目は、埋めようとすると「まだ決まっていないこと」が先に出てきます。いま任せたい仕事と、現在の体制をうかがえれば、どこを決めれば募集と依頼まで一本につながるかをお伝えします。













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