経営資源で最も不確実な「人」を活かす人事戦略|採用・育成・BPMを経営とつなぐ

経営資源といえば、ヒト・モノ・カネ・情報がよく挙げられます。最近では、技術や知的財産、時間も経営資源として扱われます。その中で、最も不確実性が高いのは「人」です。

人は、同じ仕事を任せても同じ動きをするとは限りません。段取りを考えて先回りする人もいれば、指示を待ってから動く人もいます。働く環境や上司との関係、本人の経験によって、仕事の速さも成果も変わります。しかも、今は受け身に見える人が、きっかけを得て大きく成長することもあります。

この不確実性は、人事の難しさです。同時に、事業を変える余地でもあります。だからこそ、採用、配置、育成、マネジメントを一度決めたら終わりにせず、知見を蓄積しながら技術を磨き続ける必要があります。人事を諦めない会社は、採用だけでなく、事業の進み方そのものを変えられます。

人が最も不確実な経営資源である理由

モノや設備は、同じ条件で使えば一定の性能を発揮しやすい資源です。資金や情報も、投入量や品質を基準に計画へ組み込みやすい面があります。人には、同じ条件を与えても反応が変わるという特徴があります。

たとえば、同じ作業を担当する二人がいるとします。一人は作業の前後関係を考え、必要な準備を自分で進めます。もう一人は、次の指示を待ちます。二人の能力に単純な優劣があるとは限りません。役割の説明が足りない、判断してよい範囲が不明確、相談しにくい上司がいるなど、行動を変える条件が違う可能性があります。

モチベーションも同じです。報酬だけで決まるものではありません。仕事の意味が分かるか、成長の見通しがあるか、努力が評価されるか、失敗を相談できるか。いくつもの条件が重なって、本人の行動に表れます。人事施策を一つ導入したからといって、全員が同じ反応をするわけではありません。

一方で、人には「化ける」可能性があります。採用時点では経験が足りなかった人が、適切な役割と支援を得て、チームの中心になることがあります。受け身だった人が、権限と期待される成果を理解して、自ら改善を始めることもあります。この変化が、組織の成長や事業の躍進につながります。

人を不確実だから扱いにくい資源として片付けると、採用も育成も運任せになります。不確実性があるからこそ、どの条件で人が力を発揮し、どの条件でつまずくのかを観察し、会社の知識として残す必要があります。

人事を経営の最優先課題として考える

人事の施策は、事業の方向と切り離して考えられません。今後どの事業を伸ばすのか、顧客にどの価値を届けるのか、どの業務を内製するのか。こうした判断によって、必要な人数、役割、経験、マネジメントの形が変わるからです。

「同業他社が月1回の研修をしているから、自社も来年から月1回実施する」という決め方では、研修が事業にどう効くのかが見えません。先に、事業の課題と必要な能力を整理します。新規顧客を増やす段階なら提案力や商談管理が必要かもしれません。品質を上げる段階なら、標準化、レビュー、後輩を育てる力が課題になるかもしれません。

その上で、どの人に、どの能力を、どの場面で身につけてもらうのかを決めます。経営陣と人事、現場の責任者がこの順番で話せば、研修や評価制度が単独の施策ではなく、事業を進めるための手段になります。

会社のミッションから人事の原理原則をつくる方法を考えるときも、制度の形から入るのではなく、会社が実現したい価値と人の行動をつなぐことが出発点になります。CHROや人事責任者には、人事施策を増やす役割だけでなく、経営の言葉を現場の役割や行動へ翻訳する役割が求められます。

採用の技術を高める

人事を磨く最初の領域は採用です。採用が難しい会社では、求人媒体やスカウトの数を増やす前に、採用する人の定義が曖昧になっていないかを確認します。

事業計画から逆算して、次の項目を具体化します。

  • どの事業や顧客を担当する人なのか
  • 入社後3か月から半年で任せる仕事は何か
  • 経験が必要な業務と、入社後に学べる業務は何か
  • 成果を判断する指標と、周囲との協働に必要な行動は何か
  • 採用できなかった場合、誰がどの仕事を引き受けるのか

この定義がないまま選考を始めると、面接官ごとに評価が変わります。求人票では魅力を強調しているのに、面接では別の条件を求めると、候補者の期待と入社後の現実に差が生じます。採用の技術とは、応募を集める技術だけではありません。必要な役割を定義し、見極め、条件を伝え、入社後の立ち上がりまでつなぐ技術です。

採用の各工程を見直すときは、要件定義から受け入れまでの採用プロセスを一つの流れとして確認します。求人作成、応募対応、面接、条件提示、入社準備のどこで情報が途切れているかを見つけると、担当者の努力だけに頼る状態を変えられます。採用業務の工数が足りない場合は、採用代行(RPO)を使って実務を補いながら、自社に残す判断や基準を整理する方法もあります。

交渉の技術を高める

人事における交渉は、給与額だけを決める場面に限りません。候補者が何を期待しているのか、会社がどこまで約束できるのか、入社後にどのような成果を求めるのかをすり合わせる作業です。

候補者が希望する年収をそのまま受け入れられない場合でも、最初に金額だけを下げようとすると、話し合いは条件の奪い合いになります。役割の範囲、評価の基準、勤務場所、働く時間、入社時期、将来任せる仕事を分けて確認し、譲れない条件と調整できる条件を整理します。

社内の交渉も同じです。現場が「すぐに経験者を採ってほしい」と求めても、採用市場や予算、入社後の受け入れ体制を確認しなければ、採用だけが先行します。反対に、人事が採用の難しさを説明するだけで終わると、事業側の判断材料が不足します。候補者の状況、採用にかかる時間、代替案、現場が負担する工数を並べ、経営が選べる状態にすることが交渉の仕事です。

交渉力は、話術の巧さだけで身につきません。過去にどの条件で辞退されたか、入社後にどの認識違いが起きたか、どの約束が現場で守られなかったかを記録します。記録があれば、次の採用で同じ失敗を避けられます。

マネジメントを担う人を育てる

採用した人が力を発揮できるかどうかは、現場のマネジメントに大きく左右されます。採用だけを強化しても、配属後に役割が曖昧で、相談先もなく、評価の基準も分からなければ、能力が発揮される前に離職することがあります。

マネージャーに任せる内容を「部下の管理」とだけ伝えると、報告を集めることや注意することに偏りがちです。実際には、次の仕事が含まれます。

  • 事業の目標をチームの仕事へ分解する
  • メンバーが判断してよい範囲を決める
  • 成果だけでなく、途中の詰まりを見つける
  • 本人が次にできる行動まで落とし込んでフィードバックする
  • 採用や配置の判断に必要な情報を人事と経営へ返す

これらを一度の研修で身につけるのは難しいため、会議、1on1、評価、配置の場面に組み込みます。マネージャーが何を観察し、何を記録し、誰に相談するのかを決めると、育成が本人の力量だけに依存しにくくなります。

人事と現場の役割分担を明確にすることも、マネジメント育成の一部です。人事がすべての問題を引き取るのではなく、現場が持つ判断と、人事が持つ仕組みやデータを分けておくと、問題が起きたときに責任の押し付け合いになりにくくなります。

採用・交渉・育成を回すBPMを整える

採用やマネジメントの技術を個人の経験だけに置くと、その人が忙しくなったときに運用が止まります。人事を経営活動の中で磨き続けるには、誰が、いつ、どの情報を受け取り、どの判断をして、次の担当者へ何を渡すのかを設計します。ここで役立つのがBPMの考え方です。

人事のBPMでは、次のような業務のつながりを一つの流れとして捉えます。

  1. 事業計画から必要な役割と人数を定める
  2. 採用要件を求人や面接評価へ落とし込む
  3. 選考と条件交渉の記録を残す
  4. 入社後の受け入れと早期育成へ引き継ぐ
  5. 現場の評価と離職理由を次の採用・育成へ戻す

各工程で、担当者、期限、判断基準、使用する情報を決めます。たとえば面接後の評価が口頭だけで共有される会社では、候補者の見極めも条件提示も不安定になります。評価項目と記録の場所をそろえ、誰が次の判断をするのかを決めれば、採用担当者が変わっても一定の水準を保ちやすくなります。

見るべき数字も、採用人数だけでは足りません。応募から面接までの時間、面接から条件提示までの時間、辞退の発生箇所、入社後に独り立ちするまでの期間、現場が採用対応に使った工数などを工程ごとに見ます。数字が悪い工程を特定できれば、採用広報を増やすべきなのか、面接の判断を整えるべきなのか、受け入れ体制を直すべきなのかを判断できます。

BPRとBPMを採用業務で使い分ける考え方を取り入れると、担当者の頑張りを増やすだけでは解決しない詰まりを見つけやすくなります。ただし、最初から大きなシステムを導入する必要はありません。まずは一つの職種や一つの採用経路を対象に、業務の開始条件と終了条件、受け渡す情報を記録します。その結果を見て、ルールやツールを調整します。

人事を諦めない会社が積み上げるもの

人事には、施策を実施してすぐ成果が出るものと、時間をかけて効いてくるものがあります。採用要件を直しても、その効果が採用数に出るまでには時間がかかります。マネージャーの育成も、研修を受けた翌日から組織の行動が変わるわけではありません。

だからこそ、短期の成果だけで人事を評価しない仕組みが必要です。採用後の活躍、候補者との認識の一致、現場の受け入れ負担、マネージャーの判断の質まで確認します。うまくいかなかった採用も、辞退や早期離職を責める材料ではなく、要件、交渉、受け入れのどこに改善余地があったかを知る材料に変えます。

全力で採用のスキルを高める。全力で交渉のスキルを高める。全力でマネジメントを育成する力を高める。そして、それらを回すための工数と構造、BPMを磨く。人事を経営の中心に置くとは、人事部だけに負担を集めることではありません。経営、現場、人事が同じ事業の課題を見ながら、人が力を発揮する条件を更新し続けることです。

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採用要件が定まらない、候補者との交渉が属人化している、採用後の育成まで手が回らない。現状の工程と負担をうかがい、どこから整えると人事が事業に貢献しやすくなるかを一緒に整理します。

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まとめ

人は、成長も変化もするため、経営資源の中で最も不確実です。その分、採用、交渉、育成、配置の条件を見直すことで、組織と事業の進み方を変えられます。

人事を諦めず、現場で起きたことを記録し、経営の判断へ戻し、次の施策へつなげる。その循環をBPMとして整えれば、人事の知見は個人の経験で終わらず、会社の技術として蓄積されます。

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