日本の人事制度はどう変わった?9つの考え方を『人事制度の基本』から学ぶ

西尾太さんの『人事制度の基本 この1冊ですべてわかる』をKindleで読みました。なかでも印象に残ったのが、第2章の「2-1 人事制度の変遷」です。

年功序列、能力主義、成果主義、ジョブ型。人事制度の話をしていると、こうした言葉が出てきます。ただ、それぞれが何を解決するために登場したのかまで振り返る機会は、あまりないかもしれません。

本書を読んで感じたのは、人事制度の歴史は、企業が成長するなかで直面する問題と、社員への報い方を調整してきた歴史でもあるということです。ある時代にうまく機能した仕組みも、会社の状況が変われば別の課題を抱えます。

ここでは同節の一部を引用しながら、内容を自分なりに整理し、人事や採用の現場に引き寄せて考えてみます。制度の説明は本書の該当箇所の要約で、具体例や所感は私自身の考えです。

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日本の人事制度の変遷を振り返る

本書では、戦後の日本経済の動きと人事制度の変化を重ねて説明しています。まず、全体像が分かる図を引用します。

1945年以降の時代背景、人事制度、給与制度、各時期の課題を並べた人事制度の変遷の図
出典:西尾太『人事制度の基本 この1冊ですべてわかる』(日本実業出版社、Kindle版)、第2章「2-1 人事制度の変遷」より引用。

図を読むと、生活を支える給与から、勤続や職位、能力、成果や役割へと、処遇のよりどころが広がってきたことが分かります。各制度は、前の制度で解ききれなかった問題への対応としても理解できます。

たとえば、会社が大きくなって管理職のポストが増える時期には、昇進と昇給を結びつけやすい。成長が落ち着いてポストが増えなくなると、同じやり方では社員の成長に報いにくくなります。制度だけを見るよりも、背景にある経営の状況と一緒に読むと納得できます。

なお、図の「2020〜」を含む区分は、2022年刊行の本書に示された整理です。すべての会社が同じ順番で制度を入れ替えてきた、という意味ではありません。

生活保障から年功・職位へ:会社の成長と処遇が結びついた時代

本書に登場する9つの考え方のうち、最初の3つは、生活保障と長期勤続、会社の拡大との関係で読むと理解しやすくなります。

1.生活保障主義

戦後復興期には、働いて生活を維持するという切実な事情がありました。本書では、労務の提供に対して賃金を支払い、最低限の生活を支える考え方から説明が始まります。

ここで考えたいのは、給与には成果への報酬という面だけでなく、働く人の生活を支える面もあるということです。評価制度を細かく設計しても、社員が安心して働き続けられるかという土台を見落とすと、定着の問題は残ります。

2.年功・勤続主義

高度成長期には、人材を確保して長く働いてもらうことが、会社の成長と結びついていました。本書では、勤続によって仕事に習熟し、その習熟に応じて給与が増えるという考え方が紹介されています。過去の貢献に報いる意味合いも含まれます。

経験を積むほど仕事の質が上がり、会社も伸びているなら、長期勤続と処遇を結びつけることには筋が通ります。一方で、勤続年数と現在の貢献が離れてきたときには、何に対して給与を払っているのかが見えにくくなります。

3.年功的職位主義(職階制)

組織が拡大すると、部長、課長、係長などのポストが増えます。その職位の責任に応じて処遇し、昇進を社員の意欲にもつなげるのが、この考え方です。

ただし、社員の人数や経験が増えても、管理職のポストを同じように増やせるとは限りません。昇給するためには管理職になるしかない設計では、専門性を高めたい社員にも、部下を持つ道を選ばせることになります。会社の成長が緩やかになったところで、この矛盾が表に出てきます。

能力主義と複線型制度:ポスト以外で報いるための工夫

ポストが増えないなら、社員の能力を基準にして処遇する。管理職だけではなく、専門職として進む道も用意する。次の2つには、そうした問題意識があります。

4.能力主義(職能資格制)

職能資格制度は、役職そのものではなく、仕事を遂行する能力の程度によって等級を設ける仕組みです。課長の席が空かなくても、能力の向上を認めて処遇できる点に意味があります。

難しいのは、その能力をどう確かめるかです。本書では、能力は勤続とともに高まるという前提が残り、運用が年功的になりやすい問題が指摘されています。

たとえば「調整力がある」という基準だけでは、評価する上司によって見方が変わります。「関係部署と条件をすり合わせ、納期までに案件を進められる」といった仕事上の事実まで落とせば、評価の根拠を話し合いやすくなります。能力という言葉を置くだけでは、評価基準はそろいません。

5.複線型制度

複線型制度は、管理職の道と専門職の道を分け、異なる形の貢献に報いる仕組みです。管理職にならなくても、専門性を生かして処遇される道をつくる点に意義があります。

本書では、その専門性が変化に対応できるか、管理職になれない人の受け皿として運用されていないか、という課題にも触れています。

私が考えたのは、専門職という名称よりも、専門性を通じて何を任せるかを決める必要があるということです。難しい案件の解決、品質の改善、後進の育成など、会社が期待する貢献が分からなければ、専門職の評価も曖昧なままになります。

成果・職務・行動・役割へ:何を評価するかが分かれていく

残る4つは、成果、仕事の価値、行動、役割という異なる対象に焦点を当てます。これらを一つの新旧の序列として扱うと、自社の評価で何が足りないのかを見誤りそうです。

6.成果主義

成果主義は、上げた成果や業績を処遇に結びつける考え方です。勤続や保有能力だけでは説明しづらかった、現在の貢献を評価しようとします。

本書で挙げられている難しさは、本人の働きと、運や環境の影響をどう切り分けるかです。営業であれば、担当する市場、既存顧客の有無、商材の売りやすさによっても結果が変わります。売上だけを並べて、その差をすべて本人の能力差と見るのは乱暴です。

また、結果を出すための協力や育成が評価されなければ、目先の数字に行動が偏る可能性もあります。成果を見ることと、結果だけで社員の貢献を判断することは、分けて考えたいところです。

7.職務主義(ジョブ型)

職務主義は、仕事の価値や責任の重さを基準にして処遇を考えるものです。本書では、職務記述書に基づいて職務を捉える仕組みとして説明されています。

読んでいて気になったのは、仕事を定義する作業を、その後も続けられるかという点でした。たとえば採用担当者が、応募対応に加えて採用計画や入社後の定着まで担うようになったら、仕事の範囲と期待も変わります。職務記述書が以前のままなら、実際の仕事と評価の基準がずれてしまいます。

特に、一人が複数の業務を担い、事業に応じて仕事の境界が変わる会社では、定義と見直しにかかる手間も含めて制度を考える必要があります。

8.行動主義(コンピテンシー)

行動主義は、成果につながる行動に着目する考え方です。本書では、成果を上げる人の行動を抽出し、評価に生かす発想が説明されています。

採用業務なら、単に採用人数を見るだけでなく、候補者への連絡、現場との要件調整、辞退理由を受けた対応などにも目を向けられます。ただし、「連絡した回数が多いから高評価」とすると、行動の量を数えるだけになります。

何のための行動で、仕事の質にどうつながったのかまで確かめる。この視点がなければ、行動評価にも形だけの運用が起こりそうです。

9.ミッショングレード

ミッショングレードは、企業や組織の使命を個人の役割まで落とし込み、その役割に応じて等級や評価、処遇を考える仕組みです。本書では、役割型の人事制度として紹介されています。

私なりに捉えると、個別の作業だけでなく、組織のなかで何を担う人なのかを明らかにする考え方です。「面接をする」だけでなく、「現場が必要とする人材を見極め、入社後の活躍につなげる」と役割を捉えれば、採用担当者に求める判断も変わります。

その一方で、役割を広く表現しすぎると、どこまで担えばよいかが分からなくなります。期待する役割の範囲と、処遇の釣り合いを説明できるかが、運用上の課題になります。

制度の名称より、仕事の変化と評価のつながりを見る

9つの考え方を通して読むと、給与や評価の基準は、一つに統一すれば済むものではないと感じます。職務の大きさで基本的な処遇を考え、その職務で上げた成果や、成果につながる行動を評価するなど、見る対象は組み合わせられます。

本書では、目標管理制度にも触れています。目標管理は、会社の目標を組織や個人の目標へ展開し、達成の状況を確かめるための仕組みです。成果主義や能力主義といった考え方と、必ずしも択一の関係にあるわけではありません。

さらに、仕事の内容が変われば、評価で捉えるべきものも変わります。決められた作業を安定して進める仕事と、答えが決まっていない問題に取り組む仕事では、同じ物差しだけでは捉えきれません。

たとえば採用担当者に、日程調整を滞りなく進めることを期待する場合と、新しい職種の採用方法を組み立てることを期待する場合では、任せる判断も異なります。処理件数や対応の速さは前者の仕事を捉える手がかりになりますが、それだけでは後者の貢献を見落とします。

こう考えると、評価表を変更する前に、実際の仕事が以前とどう変わったのかを確かめたくなります。事業が変わっているのに評価項目だけが昔のまま、というずれは、制度の名前を変えるだけでは解消しません。

読んで残ったのは、人事制度の「考え方」を先に決めること

今回、特に立ち止まったのが、同節の終わりにある次の一文です。

「何が正解か」は人事ポリシー(次章)や企業ステージにより異なります。

西尾太『人事制度の基本 この1冊ですべてわかる』(日本実業出版社、Kindle版)、第2章「2-1 人事制度の変遷」

この言葉は、制度の変遷を振り返ったあとに読むと、重みが違います。どの制度も何らかの問題を解くために生まれ、同時に別の難しさを抱えてきたからです。

会社が社員に期待するものは何か。経験を蓄積してほしいのか、専門性を磨いてほしいのか、組織を動かしてほしいのか。短期の業績と、中長期の育成をどう扱うのか。このあたりが決まらないまま制度を選ぶと、評価項目同士のつながりも説明しづらくなります。

たとえば「後輩を育ててほしい」と伝えながら、本人の売上だけで評価すれば、育成に時間を使う理由が薄くなります。期待する行動と報い方が一致しているかを見るほうが、新しい制度名を採用することよりも、現場の納得につながると感じました。

会社の方針と人事の判断をつなげる点は、以前書いた会社のミッションから採用と社内人事の原理原則をつくる方法とも通じます。採用時に伝える期待と、入社後に評価する内容をそろえるためにも、人事ポリシーを言葉にしておきたいところです。

今回読んだ書籍はこちらです。歴史の流れを入り口にして、等級・評価・給与のつながりを考えたい方は、本文とあわせて読むと理解を深められます。読んだのはKindle版で、下のカードは同書の紙版です。書誌情報は日本実業出版社の書籍紹介で確認できます。

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まとめ

日本の人事制度の変遷をたどると、生活を支えること、長く働いてもらうこと、能力や成果に報いること、仕事や役割に応じて処遇することが、それぞれの背景とともに見えてきます。

『人事制度の基本』を読んで持ち帰りたいと思ったのは、制度を選ぶ前に、自社が社員に何を期待し、何に報いたいのかを確かめることでした。社員に求める仕事が変わったとき、評価と処遇もその変化を捉えられているか。自社の制度を見直すときには、そこから考えてみたいと思います。

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